(14) 別宮貞雄(1922-):ヴィオラ協奏曲(1971)

 日本の作曲家のヴィオラ協奏曲の中で、もっとも有名な曲だろう。それは尾高賞受賞作ということもある。他方、当時の尾高賞は先鋭的な作品に目を向けず、このような反動的な伝統的作品に賞を与えていたということで引き合いに出されて有名でもある。
 別宮貞雄は少年時から物理学を志したが、家族の影響で西洋近代音楽には親しんでいた。東京大学物理学科を卒業したものの、趣味の音楽への関心が深まり、池内友次郎に音楽理論を学び、1946年、初めて書いた作品「管弦楽のための二章」が毎日音楽コンクールで第2位となる。その後も文学部美学科で学んだりしていたが、1951年渡仏し、パリ高等音楽院作曲科で、ミヨー、メシアンに師事した。5曲の交響曲、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ピアノのための4つの協奏曲、オペラ「有馬皇子」などの作品がある。日本の音楽界のフランス楽派の重鎮ということになるだろう。それにしても先生がミヨーとメシアンというのが面白い。ずいぶん違うふたりじゃないか。
 反動的と述べたが、前衛至上主義が崩壊したポスト・モダンの状況で別宮貞雄もかなり再評価されてきたというべきか、上述の作品にはすべてCDがある。私は別宮のよい聴き手ではなく、彼の他の作品はあまりのわかりやすい調性に辟易してしまうことが多いのだが、ヴィオラ協奏曲だけは別。フランス風の香りが漂い、平易な旋律のあとに半音階的な進行があったり、適度のテンションがあって、優れた作品だと思う。
 第1楽章、管弦楽の導入のあと、ヴィオラのカデンツァがはいるなどグランド・マナーだ。フランク風な第2主題、鍵盤打楽器による色づけなど、フランス風といえる個所には事欠かないが、ミヨーでもメシアンでもない。どちらかというとジョリヴェか。エキゾティックなムードが漂う。第2楽章は定石通りに緩序楽章で、ヴィオラが存分に歌う。終楽章はフランス風というよりも、むしろ伊福部昭風といえるようなパッセージが繰り返し出てくるのが面白い。フランク風旋律や第2楽章の旋律がここでも登場。ヴィオラも見せ場がたっぷり。約30分。
 有名といいつつ、なかなかディスクが登場しなかった。初めて出たのはなんとまあ、初演の録音。今井信子のヴィオラ、森正指揮のN響。現在手にはいるのは、初演後の放送用録音のCD化。指揮は若杉弘に替わっている。初演には初演の熱気があるが、放送録音の方が管弦楽の機微が克明に録られていていいと思う。Naxosあたりで新録音が出ないものだろうか。


NHK交響楽団, 今井信子, 別宮貞雄, 若杉弘, 鬼太鼓座, 石井真木, 岩城宏之, 山本邦山, 広瀬量平, 外山雄三
別宮貞雄:ヴィオラ協奏曲