(9)ヨハン・マティアス・シュペルガー(1750-1812):ヴィオラとコントラバスのためのソナタ ニ長調T.37

 私だけかも知れないが、ヴィオラ弾きにとって、コントラバス弾きは何だか近しい存在なのだ。オーケストラの中で、地味、目立たない、渋い、などと言われる。ソロ曲はロマン派にほとんどなくて、現代ものか、古典派のマイナー作曲家を探さないといけない。いじけつつ、密かに自分の楽器はヴァイオリンやチェロよりも何倍も素晴らしいと思っている。似ているのである。
 ところがコントラバスには、ドラゴネッティだとか、ボッテシーニだとか、コンポーザー/パフォーマーが何人もいてコントラバス作品をたくさん残しているところが羨ましいかぎりだ。シュペルガーもそんなコントラバス奏者/作曲家の一人である。
 シュペルガーという作曲家を教えてもらったのは、大学のオーケストラ部のコントラバス弾きの先輩からだった。シュペルガーの研究家にしてコントラバス奏者のクラウス・トゥルンプフが中心になったシュペルガー作品集(Camerata)のLPを借りたのである。いまはCDになっている。
 シュペルガーはオーストリアのフェルツベルク(現チェコ領)に生まれ、ヴィーンで教育を受けた。プレスブルク(現ブラティスラヴァ)の宮廷楽団のコントラバス奏者、エルデーディ伯の楽団を経て、メックレンブルク-シュヴェーリン、後にルートヴィヒスルストに移転するフリートリヒ・フランツ大公の宮廷楽団で最後の23年を過ごした。ハイドン時代のエステルハージ候の楽団に在籍していたという説もある様子。その傍らヨーロッパ各地でコントラバスのヴィルトゥオーゾとして演奏会を開いた記録が残っている。このためコントラバスをフィーチャーした作品が多いようだが、交響曲なども書いている。そしてコントラバスのお供にヴィオラもよく登場するようなのだ。
 さて上述のシュペルガー作品集だが、作曲家シュペルガーの優れた技倆を示すとともに、コントラバス奏者シュペルガーの技術を偲ばせる素敵なディスクである。フルート・ヴィオラ・コントラバスのためのコンチェルティーノ、独奏コントラバス・フルート・ヴィオラ・チェロのための四重奏曲、フルート・ヴィオラ・コントラバスのための三重奏曲という、ヴィオラ愛好家にとっても興味深い曲が収められている。
 このディスクの最後にはアンコールのように、ヴィオラとコントラバスのためのソナタからの「ロマンツェ」という曲が収録されている。まるでモーツァルトのようにロマン派への道程がみえてきそうなチャーミングな曲である。シュペルガーにはなかなか華やかなヴィオラ協奏曲もあるのだが、コントラバス作曲家であることに敬意を表して、このヴィオラとコントラバスのためのソナタを取り上げることにしたい。アレグロ・モデラート、ロマンツェ、終曲の三楽章で、曲はまずヴィオラが伴奏にまわりコントラバスが旋律を弾いて始まるのはさすがにコントラバス奏者の曲である。もっとも、弦の二重奏ソナタだから、二つの楽器は対等に旋律と伴奏を交代し合う。ヴィオラが分散和音を弾く上で、コントラバスがフラジオレットで旋律を弾いたり、大変そう。上述の美しいロマンツェのあと、終曲は楽しいロンド形式。全体で20分ほどの演奏時間という、なかなか堂々とした規模のソナタである。 
 私の持っているディスクは深井碩章のヴィオラとズヴィッツァのコントラバスによるもの。「低弦楽器のための秘曲集第2巻」に収録されている。


Klaus Stoppel, Ludwig van Beethoven, Michael Haydn, Bernhard Romberg, Gioachino Rossini, Johannes Sperger, Gerhard Dzwiza, Hirofumi Fukai
Rarities for Bass Strings, Vol. 2