雪崩4章: 雪山に魅せられし人3 | 【かほう】山の世界

【かほう】山の世界

きままに書いています。
こんどはスポーツ指導者のことをBLOぐることにしました。
読者登録歓迎します。

雪山に魅せられし人 3

スキーで掘る


1974年3月25日、北海道、ムイネ山で北大スキー部員5名が

雪崩を誘発。うち2名が帰らぬ人となった。


<無意根山遭難報告書から生還者の手記を引用します。>

生還者の一人、草田直之君は次のように記している。


『 長尾山~ムイネ山のコルを過ぎてしばらく進み、立木の傍でシールを外しのはちょうど午後4時であった。苦しかった登りは終り、あとは下りだけで、20分もあれば小屋に着けるという安心感が全員にあった。

先頭にA、そしてB,C,Dと私のオーダーで斜滑降で下り始めた。上にも下にも木のない急斜面を過ぎてしばらくすると、前方に、東へ延びる尾根が見えた。あの尾根を下るのだろうかと思いながら進んだが、その尾根に出ると、思ったより急で、みんなも先に進んでいるのであとを追った。

ちょうど立木の間で止まっている4人に追いつき、最後尾で斜面の下の方を見ていた。その斜面は30度近くありそうだったが、木はまばらで、全くきれいな板のような斜面に見えた。

立ち止まっていたのはほんの短い時間だったと思うが、その間誰も何も話さず、今にして思えば不気味な静けさであった。


そして突然、いやな感じを全身に感じ、足元を見ると雪がサッサーと流れている、と思った時すでにゆっくり流れはじめていた。

いつ倒れたかも全くわからないまま、雪の上をすべり落ちていく。なんとか止めようと足を踏ん張ったり、つかむ木を探したが、そのうちどんどん速度を増しながら落ちて行った。まわりの雪という雪が動いていた。雪の量もどんどん増えているような気がした。


腹から胸のあたりまで雪の中にあり、後からひどく押されているような気がした。立ったような状態で流されていたので、そのままの状態を保って何とか顔だけは外に出しておこうと、必死に手を動かし泳いだ。だが、どこまで流されても止まりそうになく、流れは相当な速さになっており、ただ恐ろしいという以外は何も頭になかった。

その時雪の中でスキーが外れ、雪をまともにかぶって何が何だかわからなくなった。次の瞬間、雪れがおさまり、私は雪の上にいた。

ほとんど埋まっておらず、すぐにキスリングとスキーをはずし、みんなの名前を呼んだが、誰も答えない。ひどく焦って斜面をかけ降りると、すぐ下の方に雪の中から突き出ているスキーのテールが見え、駆けよって見ると、Bが顔だけは何とか出ているが、全く身動きできない状態で埋まっていた。

Bを掘り出して間もなく、3~4m下方でDが見つかった顔色が非常に悪く生気を失っていたが、雪の外に出てしばらくすると、すごに元気になった。


その後、3人で約30分、行方不明のAとCの名前を呼び、スキーのテールを突き押しながらデブリの上を歩き回ったが、何も手がかりはなかった。


5時頃、連絡のためBが下山し、その後Dと私の2人で。木の陰や雪の盛り上がっていり所を、スキーのテールを押しながら必死で探しまわった。一刻も無駄にできないと思った。しかし下を探しているともっと上にいるのではないか? 右を探しているときももっと左のような気がし、焦りばかり先だってしまう。


7時頃、Dとチョコレートを1箱ずつ食べた。2人とも、ほとんどあっという間に全部食べてしまった。この頃はもう真っ暗となり、下山したBの方も心配になり自分が下ればよかったと思ったり、その他、雪の中を歩きながら、不思議なくらい様々なことが頭に浮かんだ。3時間近い時間の経過に焦りもつのるが、デブリも深く、思うように進めない。

スキーのテールを突き推しても1m足らず、もっと下まで埋まっているかも知れないと思い、ブロック状に切り出しながら進んだが、疲れるばかりでなかなか進まなかった。

午後10時頃、手袋、ズボンが凍り、手足が冷たく、スキーも握れなくなった。Dも私もひどく疲れていた。その後11時まで何も発見できず、ビバークを決めた。スキーで掘った穴にシュラフに入ってうずくまり、Dと交代で眠ろうとしたが、結局ほとんど眠れなかった。


翌浅、Bのこのも気になり、下山することに決め尾根を登ろうとした時に、捜索隊の人のコールが聞こえ救助された。』


<北海道大学エレガントスキー部 「無意根山遭難報告書」1974年>




※雪崩の状態にもよるが、ナダレる雪と人間の比重で言うと

  人体は約3~5m雪崩雪に埋まる可能性が高い。

  雪崩に巻き込まれるとスキーを外せ、リュックを捨てろ~とは

  いうが、雪崩のもまれるとそんなことすらできる余裕はなくなる

  らしい。

  流れに逆らえないが、雪の中で足を蹴って両手で泳ぐと、

  雪崩の中から上部へ飛び出す可能性はあるらしい。

  ただし、雪崩の中でもみくちゃにされると彼我の天地が

  分からなくなるらしい。