高校1年 冬 ────────
みなみと出会って8ヶ月。
「みなみ、お疲れ~。」
すっかり薄暗くなった教室で、わたしは部活を終えて教室に戻ってきたみなみを出迎えた。
「陽菜~。まだ残ってたの?」
苦笑いを浮かべながらみなみが言った。
「うん。」
わたしは笑顔でみなみに答えた。
みなみに対して恋心を抱き始めて数ヶ月。
その想いは薄れるどころか膨れる一方で、今まで他人に興味のなかったわたしの性格まで
変えてしまうぐらい、わたしはみなみに夢中だった。
今だって少しでもみなみと一緒の時間を過ごしたくて部活終わりのみなみを待つとか、
今までのわたしだったら考えられない行動だと思う。
恋とは時にひとを大胆にさせる。
「前にも言ったけど、教室で待ってても寒いだけだし、わたしのことは気にせず
先に帰っててもいいんだよ?」
みなみは自分の席まで来ると、引出しの中から教科書やノートを取り出し、カバンの中に入れ始めた。
「いいの!わたしが待っていたいんだから。」
わたしは自分の席に座ったままみなみに向かって言った。
「でも、風邪とか引いちゃうよ?」
「大丈夫、大丈夫。風邪なんて・・・、ハックシュン。」
言い終える前に、わたしの口からクシャミが出た。
「ほら。だから言ったじゃん。」
みなみは一旦手を止めると、わたしの席まで歩み寄り、首にしていたマフラーをわたしの首に巻く。
フワッとマフラーから漂ったみなみの残り香がわたしを包み、思わずわたしは顔を赤くした。
「あれ?なんか顔も赤いけど・・・。熱もあるんじゃない?」
わたしが顔を赤くした原因を知らないみなみは、わたしの額に右手を添える。
「ね、熱なんてないよ。大丈夫だから・・・。」
わたしは慌ててみなみの右手を自分の額から離した。
(もう、いい加減気付いてよ。鈍感にもほどがある・・・。)
「うわっ。陽菜の手、なんでこんなに冷たいの?冷え性?」
そう言いながら、みなみはわたしの前の席に座るとわたしの右手を両手で包み込む。
わたしはみなみからマフラーを借りているだけでも鼓動が早くなって落ち着かない状態になっていたが、
その上、両手で手を握られ、軽いパニック状態に陥りそうになっていた。
「み、みなみ。ホント、もう大丈夫だから・・・。」
(これ以上みなみに触れられてたらマズイ。)
わたしは空いている左手で、みなみの両手を剥がそうとした。
「どうして?わたし、手の温かさだったら誰にも負けない自信があるんだよね~。」
みなみは自慢げに言いながら一向にわたしの手を離さない。
さらにわたしの鼓動は早くなり、すでに限界寸前だった。
(ほんと、バカ!これ以上はもうムリだってば!)
「ホントに大丈夫だからっ!」
わたしは思わず声を荒げて立ち上がり、みなみの手を振り解いた。
突然のことに、みなみは呆然とした表情で立ち上がったわたしの顔を見つめていた。