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朝6時になると、「工場の歌」が毎日流れる

歌とはいっても、流れるのは伴奏のみ

昔は歌声入りだったが、

5年前から伴奏のみとなった。

「朝から工場の歌は聞きたくない」という作業員の要望が毎日のように主任に寄せられたのだ

主任は署名を集め、社長に提訴した。

「工場の歌は、流さないでいただきたい」

華麗なる一族のお父さんのように目をいっぱいにしてまばたきをせずにしつづけていた社長が何か言おうとするのを制し、

鉄矢課長は、厳かに、かつ声高らかに提案した。

「確かに、歌詞にはいささか問題があることを禁じざるを得ないものでありますがしかし、

しかし一方において、メロディは牧歌的ともいえる和やかなもので、悪くはないものであります。」

ここで間を置く。社長はじっと目を閉じる。

目を開けていることに疲れたのだと察した鉄矢課長はたたみかけた。

「歌詞は悪いがメロディはよい、

つまり以上の点から、至極最もなものとして導かれる帰結として、伴奏のみとする案を提出させていただくものであります」


社長は、再び目を大きく開け、

 「提案を、受け入れよう」と課長に伝えた。


※歌詞(サビの部分)

  なぜなら、ただ働く

  われわれは、ただ働く

  われわれは、ただ、働く

  それだけの人生なのだ