siki

本当に久しぶりのミュージカル、久しぶりの劇団四季だった。四季劇場すら初めて足を踏み入れたのだから。数週間前に急に思い立ってチケットをとった。最近リアルな戦争モノをテレビや映画で観ていて、舞台はどうだろうと思って…。

ミュージカルをどうしても受け入れない人がいる。タモリとかさんまもたしかテレビでそう言っているように、踊って歌いながら台詞を言うことに、リアリティを感じられない、あるいは目の前で大げさに演じられても感情移入できないと…。確かに言いたいことはわかる気もする。私も今回席が前の方だったこともあり、役者の汗も見えたし、何よりも耳のそばにつけている小さなマイク(←多分)が気になって仕方なかった。

でもそれを凌ぐ迫力が舞台にはあるし、歌にこめられた想いは、台詞よりも感動を誘うこともある。


『異国の丘』  劇団四季 浅利慶太演出


これは実話をアレンジしている。東條英機の前の首相、近衛文麿の息子文隆の人生がベースになっている。原作もある。

文隆(役では九重秀隆)は、17歳からアメリカに留学し、その時代世の中は日中戦争の最中。ある工作員の策略で、中国高官の娘「愛玲」(これは役名)と出会い、恋に落ちる。その後、日中の和平を画策するが、結局失敗に終わり、最終的にシベリアに抑留され、ここで若くして人生を閉じる。

大雑把に言うと、彼の人生がかなりアレンジされ、ミュージカルとして描かれたのが「異国の丘」だ。ソ連にスパイになるよう強要されても、最後まで国を裏切る道を選ばなかった晩年の彼の選択が大きなテーマの一つになっている。

ミュージカルだからなのか、主人公であり実在の人物である九重のキャラからなのか、今ひとつ感情移入しきれなかった部分があった。やはり彼は戦時下の首相の息子という特別な身分であったわけだし、その時代にアメリカに気楽に留学して(実際の史実でも彼は留学時代は勉強をあまりしなかったらしい)、簡単に恋に落ちて(この辺はミュージカルの限界か…)ってところが、どうも最後まで腑に落ちない。何だか大した人ではないような気がしてしまう。

それよりもむしろ多くの名もない日本人が、太平洋戦争戦後長きにわたり、極寒の地で過酷な労働を強いられた事実、そこで多くの人が命を落とした事実の方が、心に刺さるものがある。

多くの日本の若い人は、昭和20年の終戦をもって、復興、平和への道を歩みだしたと思っているが、実際はその後も長きにわたり(ある意味今も)、戦争を引きずり、戦争によって過酷な人生を強いられた人が数多くいる。実際にシベリアの抑留者が最終的に引き上げたのも、戦後11年経った後ということ。

事実の重みが舞台という華やぎを押しつぶしている。そういう意味でミュージカルとして、100%満足な作品かというと疑問も残るが、多くの人にこうして歴史を伝えていくことは大切なことと思う。また、メインの楽曲ではちょっと目頭がうるっときたのも事実。

ただ、ステージが狭くて、ダンスが窮屈そうだった。ささいなことのようだが、こういうことが結構舞台の場合は、興ざめさせる原因になったりすることもある。ライブに感情移入するのは、結構難しい。