名を取るより実を取れ② | NO MORE 伴侶泥棒!

NO MORE 伴侶泥棒!

ある日、ひょんなことから、上司の不倫の証拠を握ってしまった私と
やまちゃん先輩の苦悩?の日々を綴ります。
いや~、不倫って本当に周りに迷惑です。
公害のなにものでもないよ。そんな不倫なんかやめちゃいな!

時計を眺めているとちょうど50秒後ぐらいに


携帯は着信を知らせた。


「もしもし耕作です」


耕作の困惑した感じが簡単に聞き取れた。


「田辺です。では、もうそちらに伺ってもよろしいですか?」


「いや・・・あの、ちょっと場所を移した方が・・・」


 まだそんなことを言ってる忌々しい奴めビックリ


私は耕作の言葉を遮って言った。


「あまり時間は割けません。この後、東京に戻るつもりなので。」


「改めて会社でっていうのは、どうなるのかな?」


 奴は何とかこの場を逃れようと必死だ


「さあ? その時は、私の知ったところではないわ。

 決裂したのに、改めて会社っていうのはないでしょ。

 結果は出ているのだし。

 週明けに結果を見に来たらいいんじゃない?

 じゃあ、そういうことで。」


「ちょ ちょ 田辺さん。そんな冷たい言い方しないでよ。

 何とかならないかな?」


「私がここに来ている意味がわかってますか?

 いいかげんにしてくれないかな?

 ただ時間稼ぎしているだけなら、もう切りますけど。」


「え、 え ちょっともう少し待って。」


「いえ。もう中に入ります。それで面会できなければ

 帰ります。ここに出向しただけでも感謝してほしいのに

 待たせるなんて、そこまでの義理はないです。」


「わ・・・わかった。その前にちょっと・・・」


私は、またも耕作の言葉を遮り、


「それでは、中へ入ります。」


と言って電話を強引に切った。


一見、快活そうに振舞っているが、本当は気の弱い


器のちっさい男なんだよな~ぶー と改めて思う。


ツカツカと旅館の玄関に入っていくと、


すっと上品な仲居さんがご挨拶をしてくれた。


私は会釈し、


「ちょっと所用で、ご宿泊している耕作さんと

 お会いする予定の者なのですが。」


「かしこまりました。少々お待ちください。」


と言って私をロビーに通し、


いるともいないとも言わず、仲居はスッと奥に消えていった。



中に入るとさらに、老舗の高級旅館といった風情が


漂っていると洋子は感じた。


豪華絢爛というわけではなく、上質な素材のものを


品よく整えてあるといった感じである。


間もなくすると、先ほどの仲居が来て


お連れ様がすぐに見えますと告げた。


すると、本当にすぐに耕作がやってきた。


相当にあわてたらしく、少々髪が乱れていた。


身なりは私服のままで、内心ほっとした。


旅館の浴衣ででも現れたら、生々しさから吐き気を覚えるところだったと思う。


私は耕作の方へ行き「さあ」と促した。


すると、


「ちょっと仕事のことで。泊るわけではないんで」と仲居さんに


言い訳ともつかぬことを言いながら、会釈を何度もしながら


耕作は、部屋の方へ歩を進めた。


立派な庭を一望できる廊下を歩いていると


先には、別棟になっている何軒かの小さな庵のような建物が


見える。1つ1つは渡り廊下でつながっていて、いかにも


露天つき一軒家の風趣が見える。


???


いったいどこにこんな金があるんだろうか?


ふと麗子ちゃんが言っていたお金の出所というのに


興味を覚えた。


突然、渡り廊下の前で耕作は立ち止まってくるりと向き返った



「な・・・な、結局どういうことなんだよ?」


哀願するように、問うてきた。


卑しくもまだ、弁解の余地を探ろうと必死なのである。


「それはお部屋でのんのんさんも交えてお話させて頂きます。」


それでも引き下がるまいと最期の抵抗を耕作が試みようとしたのが


分かったので、ここは一発嫌味を言ってやれと思った。


「ずいぶんと高級なところにお泊まりなのね。

 お稼ぎの良い方は羨ましいわ。」


とたんに、耕作の顔色がスーと青ざめて急に何も言わなくなった。


脱力したかのように、一歩一歩その高級棟の1つに近づいていった。


確かに、嫌味を言ったが、そんなにショックを受けるほどだろうか。


なんだか腑に落ちない想いにとらわれながら


座敷に入った。


そこには、手持ち無沙汰そうに一人の女が座っていた。


あいかわらず、ハツカネズミのような顔だちだ。


こちらも私服だが、地味なまるでおばさんが町会の懇親会で


遠足に行くようなかっこにしか見えない。


千賀子は、2児の母だが、外見はほっそりしていて服の趣味も良い。


そんな彼女がこんなドブネズミのような女を見たら、


情けない思いをしただろうと、やはり連れてこなくてよかったと


思った。


ハツカネズミは、攻撃的でもなく、だからと言って愛想がいいという


わけでもなく、しいて言えば、どちらに転ぼうか考えあぐねて


なるべく無表情を決め込んだという顔つきだ。


私はここでのイニシアチブを奪取するため、


すぐに話しを始めた。


「とりあえず、事実確認をさせて頂くことにするので


 一人ずつ話を聞きたいの。まずは耕作さん。


 のんのんさんは、申し訳ないけれどお部屋の外で待機していて


 頂けるかしら?」


 ハツカネズミは、すぐに立たずに耕作の意見を促すかのように


 彼の顔色をうかがった。


「ごめんなさいね。時間がないのでね。

 あなた達もこんなことさっさと終わらせたいでしょ?」


耕作は、弁明するなら、のんのんがいない方が好都合と思ったのか


とりあえず、俺から話すよと言った。


さっきまでの耕作とは違い、大人ぶった口調だった。


のんのんは心配そうにモタモタと立ち上がったが、


思い出したかのように


「どの部署からの依頼ですか?」


と聞いてきた。


「ごめんなさいね。今日は私が質問する役なの。

 その話はあなたの番のときに話しましょう。」


途端に、ムッとした表情が表れた。


本性とご対面である。


しかし、立場が立場だからかそのまま静かに出て行った。


若干、襖を閉める音が少し荒々しいくらいだ。


お茶でも入れようかといった耕作を制して


すぐに本題に入る。


「一応、現状を考えると現行犯なので、

 社内不倫があったことは認めるってことでいいかしら?」



またもや、耕作は青ざめた表情で


「いや、不倫というかその大それたものでは・・」


いちいちメンドクサイ奴である。


「この状況で、不倫以外に何があるの?

 それとも出張?

 いいかげんにしてよね。」


耕作は項垂れながら、頷いた。


「不倫で社内秩序を乱したわけだから、

 まずは誓約書を作成させていただきます。」


私は、やまちゃんから託された封筒から

誓約書のフォーマットを出して、耕作の前に置いた。


それには、今後、社内秩序を乱す不倫行為は二度と行わないことは


もちろんのこと、不倫期間と肉体関係の回数を記入する欄と


署名捺印で締めくくられている。


耕作はギョッとした顔をしながら、誓約書を穴があくほど見つめていた。


「まず、不倫の期間の記入をしてもらいます。

 いつですか?」


耕作は首をかしげるようにしながら、


「いや、期間と言ってもそんな・・・ここ3カ月くらい」


とか細い声で言った。


ここまで来ても白を切る腹のようだ。


「あのね、社内秩序を乱したってことは

 社員の中でも迷惑している人達が沢山いるの。

 たかが、3か月くらいで不満が溢れると思ってるの?」


私はすぐに言い返した。


すると耕作は私を睨みつけ


「だいたいこんなもの作成するかよっ

 ここ3・4カ月って言ってんだろっ

 知らねーよ。

 人の粗さがしばっかりしやがる

 バカ社員なんかちょっとホコリがたてば、

 大ごとのように大騒ぎしやがって」


と机をたたいた。


どうやら、逆切れをして場をごまかそうという魂胆らしい。


弱い犬ほど良く吠えるとは、言うもんだなと思った。



瞬間、脳裏に千賀子の泣き顔がよみがえる。


思いっきりこの場でこいつを殴れたらどんなに気持ちいいだろうか?

右手で握りこぶしを作ってみるが、膝の上でギュッと押しつける。


キレた方が負けだ。


どうやら、まだ耕作も半信半疑なんだろう。


それなら、いい。


目にもの見せてやろう。


私は、封筒から更に三枚の写真をテーブルに投げつけた。


怒りを存分にぶつけたそぶりを見せながら横向きに座っていた耕作は


ちらりと横目で確認したようである。


確認した目には俄かに動揺が走る。


「もうね、あんたがジタバタして

 白を切ればいいって問題じゃ

 なくなってるんだよ。

 会社をなめるのもいいかげんにしなっ」


私は切り札のセリフを投げつけてやった。


「これは」


と言ったっきりワナワナと指を震わせながら、写真を凝視する。


そう、昨年横浜で麗子ちゃんが嫌々手伝わされて撮影した


証拠写真である。