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原題:Everything Everywhere All at Once
監督:ダニエル・クワン/ダニエル・シャイナート
キャスト:ミシェル・ヨー/ステファニー・スー/キー・ホイ・クァン
配給:A24/ギャガ
公開:2023年3月
時間:140分




「何がスゴいのかよく判らないからネタバレのしようもないけど,とにかく『EEAAO』がブレイクしてる」と,アメリカ在住の友人から聞いたのは昨年の初夏だったか。2022年5月に公開された当初は,全米でわずか10館のみの超小規模上映だったこの作品が,口コミとリピーターで話題となり,3週目からは一気に1250館に拡大,最大2220館で上映されたという。約2000万ドル前後の低予算に対して,全世界1億670万ドルの特大ヒット。今月発表されたアカデミー賞では見事7冠を達成した『エブエブ』を今夜は紹介。

とはいえ,アジア系作品だし,予告を見ても個人的には微妙に感じたので,今月からの国内上映は知っていても見送っていた作品。アカデミー賞発表後の鑑賞となった。脚本・監督は,これが長編作品2作目でとなるダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート。第86回の『ゼロ・グラビティ』以来となるオスカー7冠は,もう,シンデレラもビックリなシンデレラストーリーだ。

中国移民のエヴリン・ワン・クワン(ミシェル・ヨー)は,経営するコインランドリーが破産寸前,ボケているのに頑固な父親ゴンゴン(ジェームズ・ホン)の介護,いつまでたっても反抗期で女性の恋人がいる娘ジョイ(ステファニー・スー),優しいだけで頼りにならない夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)と,盛りだくさんのトラブルを抱え,まさに人生どん底状態。

さらに税金申告の締め切りが迫りテンパっている彼女の前に突如,「別の宇宙(バース)から来た」と言う夫が現れる。大混乱するエヴリンに「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と,世界の命運を託されてしまうエヴリン。しかも,ジョブ・トゥパキと呼ばれる巨悪の正体は別のバースの娘ジョイ。困惑しながらもマルチバースへジャンプし,“別の宇宙のエヴリン”の力を得てカンフーの達人となり,ジョイの暴走を止めるための過酷な戦いへと身を投じるエヴリンだったが…。

“マルチバース”という荒唐無稽なSFをベースに,創意工夫が光る奇抜なアート風のトーンを取り入れ,アジア系移民の視点,LGBTQのメッセージも込めた,まさに多彩な顔を持つ作品。並み居る秀作の中から,この作品が作品賞ほか7部門もに選ばれたのは,アカデミー賞の流れを変えると言える快挙だ。

多くの人が精神的・身体的に苦しめられたコロナウィルス,絶え間ないヘイトクライムと浮き彫りになる構造的人種差別,そして腐敗しきった政治とモラルを失った民衆。これら社会問題を,生きているだけで突き付けられる日々の中で,この映画は人々が求めていた“生きる意味”を,隠喩的に与えてくれたのではないだろうか。

ただ,欧米人と較べ,アジアに住む日本人としては,人種や社会への問題意識は乏しく,正直,面白いけれどイマイチ響かなかった。


映画クタ評:★★★★


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