怒り | p・rhyth・m~映画を語る~

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英題:RAGE
監督:李相日
キャスト:渡辺謙/森山未來/松山ケンイチ
配給:東宝
公開:2016年9月
時間:142分




たまには沁みる作品も。少しだけ重くて暗いけど,俳優たちの挑戦的な演技を堪能できる1本を今夜は紹介。原作は吉田修一の小説で,2012年から1年間『読売新聞』朝刊に連載された後,加筆修正されて2014年に上・下編の二部構成で刊行された。執筆のきっかけとなったのは,リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件だという。

監督・脚本は李相日,音楽は坂本龍一という強力布陣で描かれるヒューマン・ミステリー・サスペンス。妻夫木聡に日本アカデミー賞・最優秀助演男優賞をもたらした作品ともなった。

八王子の閑静な住宅地で,惨たらしく殺された夫婦の遺体が見つかる。室内には,被害者の血で書かれた『怒』の文字が残されていた。犯人逮捕に結びつく有力な情報が得られないまま,事件から1年が経つ頃,千葉・東京・沖縄に素性の知れない3人の青年が現れる。

歌舞伎町の風俗店で働いているところを発見され,千葉の漁港で働く父・洋平(渡辺謙)に連れ戻された愛子(宮﨑あおい)。やがて,漁港にふらりと現われ働いていた青年・田代(松山ケンイチ)と恋に落ちる。

東京の大手通信会社に勤めるゲイの優馬(妻夫木聡)は,クラブで出会った直人(綾野剛)を気に入り,家に連れ帰る。直人は末期ガンを患う優馬の母・貴子(原日出子)とも親しくなっていく。

母に連れられ,東京から沖縄の離島に引っ越してきた高校生の泉(広瀬すず)は,離島を散策中,無人島に1人で住みついている謎めいたバックパッカー田中(森山未來)に出会い,気兼ねなく話せる彼に心を開いていく。

そんな中,TVでは逃亡中の犯人の情報を求める公開捜査番組が放送されていた。犯人は整形して,日本のどこかで一般市民に紛れて逃亡生活を送っていると見られていた…。

3つの舞台で展開するドラマは決して交差しない。しかし,映像と音で次々と繋がれる巧妙なカットバックは,次第に見る者に「もっと!」と次を求める禁断症状を起こさせる。その,群像劇ともオムニバスとも異なる手法によって焙り出されるのは,“人が人を愛することや信じることの根拠の不確かさと脆弱さ”。

しかしそれだけでなく,真犯人に迫っていくという展開に見せかけて,登場人物のほぼ全てが“怒り”の感情を放っていることに気づかされる。社会構造への怒り,抗えない現実への怒り,そして,自分の非力さへの怒り。これらの怒りのいずれかに,見る者を共感させる作戦か。とにかく,エンディングでは広瀬すずと共に叫んでしまいたい衝動に駆られる。そんな不思議なパワーを秘めた作品だ。


映画クタ評:★★★★


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