ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 | p・rhyth・m~映画を語る~

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原題:The Post
監督:スティーヴン・スピルバーグ
キャスト:メリル・ストリープ/トム・ハンクス/サラ・ポールソン
配給:20世紀フォックス/ユニバーサル・ピクチャーズ/東宝東和
公開:2018年3月
時間:116分




「20世紀に起きた様々な出来事を映画にして後生に伝えることがライフワークだ」と語るスティーヴン・スピルバーグ監督が,トランプ政権誕生の瞬間に製作を思い立ち,たった1年で撮り上げたという最新作を今夜は紹介。時の政権に屈することなく,言論の自由を守るために戦ったジャーナリストたちの誇りと覚悟を描いた社会派実録ドラマだが,昨年のゴールデングローブ賞の授賞スピーチで,就任前のトランプ大統領を批判してみせたメリル・ストリープの起用が,実はすでにメッセージとなっている。

2011年に世界中に報じられた邦題の『ペンタゴン・ペーパーズ』だが,日本人とアメリカ人では全く重さの違うものだというのが,この作品の週末興収の差に表れた。『ペンタゴン・ペーパーズ』とは,1971年に作成された,ベトナム戦争を分析・記録したアメリカ国防総省の最高機密文書の通称。文書の正式なタイトルは「History of U.S. Decision-Making Process on Viet Nam Policy, 1945-1968(ベトナムにおける政策決定の歴史,1945年-1968年)」という。47巻構成,約100万語に及ぶこの文書には,ケネディ,ジョンソン,ニクソン政権下の政府による隠蔽工作が記録されているのだ。

ベトナム戦争が泥沼化し,アメリカ国民の間に戦争に対する疑問や反戦の気運が高まっていた1971年。アメリカの大手新聞の1つ“ニューヨーク・タイムズ”が,ベトナム戦争に関する政府に不都合な事実の記載された最高機密文書・通称“ペンタゴン・ペーパーズ”についてのスクープ記事を発表する。アメリカ中が騒然となる中,ニクソン政権は裁判所に記事の差し止め命令を要求する。

タイムズが出版差し止めに陥る一方,出遅れたライバル紙の“ワシントン・ポスト”では,編集主幹のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)が文書の入手に奔走する。やがて全文のコピーを手に入れたポストだったが,それを公表すれば政府を敵に回し,裁判となって会社の将来を危うくしかねない。経営と報道の狭間で社内の意見は大きく二分する。そしてそんな重大な決断が,亡き夫の後を継ぐ形でいきなりアメリカ主要新聞社史上初の女性発行人となったキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)に託されたのだった…。

原題の『The Post』はワシントン・ポスト紙のこと。映し出されるのは政府による欺瞞と,ベンのプライドと,キャサリンの葛藤。そしてストーリーは,ウォーターゲート事件の捜査の始まるところで幕を降ろす。歴史を予習してから観ると,47年前の物語を映像化し,“今”に警鐘を鳴らそうとするスピルバーグ監督の映画人としての意志が,明確に心に響くはずだ。

冒頭に触れたメリル・ストリープの授賞スピーチから,象徴的な2つのフレーズを掲載しておくので,ぜひ作品と併せて噛みしめてほしい。
Disrespect invites disrespect, violence incites violence. And when the powerful use their position to bully others, we all lose.
【無礼は無礼を招き,暴力は暴力を誘発する。権力者がその地位を使って他者をいじめたら,私たちは全員負けてしまう】
As my friend, the dear departed Princess Leia, said to me once,“Take your broken heart, make it into art.”
【私の友人であり,亡くなったレイア姫(=キャリー・フィッシャー)が以前,私に言った。「傷ついた心をもって,それを芸術に変えよう」と】

なお,この作品と同時に準備の進められたもう1本のスピルバーグ監督作品『レディ・プレイヤー1』は今月20日からの公開が決定。こちらはSF娯楽作。公開が楽しみだ。


映画クタ評:★★★★


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