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英題:In This Corner of the World
監督:片渕須直
キャスト:のん/細谷佳正/尾身美詞
配給:東京テアトル
公開:2016年11月
時間:129分




今夜紹介するのは,2016年11月に国内63館で封切られた後,公開規模を徐々に拡大し,1年以上のロングランとなったアニメ作品。累計動員200万人,興収26億円超と,ミニシアター系作品ながら異例のヒットを記録し,第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞も受賞。国外でも50以上の国と地域で上映された。制作の足がかりとなる資金を,一般からのクラウドファンディングで調達したことでも話題となった。

原作は2007年から2年に渡り連載された,こうの史代の漫画。脚本・監督は,多くのTVアニメ,劇場アニメを手掛けてきた片渕須直。また,NHK連続テレビ小説『あまちゃん』のヒロインとして一躍国民的人気女優となった能年玲奈が改名した“のん”名義での本格的な復帰作品ともなった。

1944年(昭和19年)2月。絵を描くことが好きで海苔梳きの家で育った18歳のすず(のん)に,急に縁談話が持ち上がる。あれよあれよという間に生まれ故郷の広島市江波を離れ,20km離れた日本一の軍港のある街・呉に嫁ぐことになる。彼女を待っていた夫・北條周作(細谷佳正)は海軍の軍法会議録事(書記官)で,幼い頃に出会ったすずのことが忘れられずにいたという,一途で優しい人だった。

北條家に迎えられたすずは,見知らぬ土地での生活に戸惑いつつも,健気に嫁としての仕事をこなしていく。戦況が悪化し,配給物資が次第に減っていく中でも,すずは様々な工夫を凝らして北條家の暮らしを懸命に守っていく。日本海軍の根拠地であった呉は何度も空襲に遭い,いつも庭先から眺めていた軍艦が燃え,街は破壊され焼け跡となっていく。すずが大切に思っていた身近なものたちが奪われていく中,それでも日々の営みは続く。こうして,昭和20年の夏を迎え…。

戦争を“テーマ”や“背景”とする作品はたくさんあるし,このコーナーでもいくつか取り上げてきた。しかし,戦争を“時代”として描き,日常のなかに平然と悲劇が入り込む戦時下の特殊性と,食べたり,笑ったり,喧嘩したり,愛したりといった普遍的な営みの同居を,これほど丁寧に映した作品はないのではないか。そこから滲むのは“反戦”でも“平和希求”でもなく,当時の“日常”と“ささやかな幸福”。そして“時代”を生きた日本人共通の“葛藤”。敢えて“ホームドラマ”と分類したい1本だ。

なお,ヒットのご褒美として,約160分の長尺版が制作されることになった。公開予定は今年の年末頃だという。


映画クタ評:★★★★


右矢印日本アカデミー賞受賞作品まとめ


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