金メダル男

監督：内村光良
ｷｬｽﾄ：内村光良／知念侑李／木村多江
配給：ショウゲート
公開：2016年10月
時間：108分

ウッチャンと言えば，個人的には真っ先にNHKの『LIFE!〜人生に捧げるコント〜』が思い浮かぶ。今年は不定期放送となっているがseries-5を迎えたオムニバスのコント番組。コントに懸けるウッチャンの姿勢が番組全体から香る。そこに描かれるのは毎日を懸命に生きようとするからこそ突き当たる人生の“可笑しさ”や“哀しさ”。憑依芸人としてキャラクターの引き出しが非常に多いと評価されるウッチャンに感化され，レギュラーのムロツヨシ，星野源，吉田羊などは，この番組から才能を開花させていったとさえ思える。

今夜紹介するのは，『ピーナッツ』(2006年・コムストック)『ボクたちの交換日記』に続く，ウッチャンこと内村光良監督の劇場版３作目。2011年に東京・サンシャイン劇場で上演された彼の１人舞台『東京オリンピック生まれの男』を原案に，監督・脚本・主演を務めたコメディ。

東京オリンピックで日本中が盛り上がる1964年，長野県塩尻市に生まれた秋田泉一は，小学校の徒競走で一等賞に輝いたことがきっかけで一番になることの素晴らしさを知り，以来，絵画から火おこしまで様々な大会で金メダルを獲りまくり“塩尻の金メダル男”と呼ばれるようになる。

ところが中学に入ると異性のことが気になり，すっかり一等賞が獲れなくなってしまう。高校で巻き返しを図るが勉強もスポーツもなかなか上手くいかない。しかしそれは，金メダルにとりつかれた秋田泉一が繰り広げる波瀾万丈の“七転び八起き人生”のはじまりに過ぎなかった…。

特筆すべきはキャストの多彩さ。内村光良とともにW主演で若き日の泉一を演じるのはHey! Say! JUMPの知念侑李。泉一の父・留一を平泉成，母・房江を宮崎美子，後半の泉一の人生に深く関わってくる亀谷頼子を木村多江，さらにムロツヨシ，土屋太鳳，笑福亭鶴瓶をはじめ，ほぼ１シーンのみの出演で，大泉洋，竹中直人，田中直樹，長澤まさみ，ユースケ・サンタマリア，マキタスポーツ，高嶋政宏，温水洋一，南原清隆，水卜麻美，有吉弘行，久本雅美，河北麻友子，ライセンス，福澤朗，イモトアヤコ，堺正章，榊原郁恵，福留功男。何と松井秀喜に北島康介まで出演。個性豊かなメンバーが存在感を発揮することで“人とのつながりなしに人生は成り立たない”という普遍的なメッセージが浮き彫りになる。

テレビや舞台と違う，映画の“笑い”に挑戦したかったと言う内村監督が魅せるのは，全編に笑いを盛り込みながらも，主人公のひたむきな生きざまから滲み出る，人生の悲哀と可笑しさ。まさに“人生に捧げるコメディ”な１本だ。

「笑っているけど泣いているみたいな瞬間ってあると思うんです。幸せすぎて，笑っているんだけど気がついたら一筋涙が流れているとか。そういったことを，ちょっとでも感じとってもらえればいいかなと思います」
と，完成後のインタビューで語っていた内村監督の表情が，妙に記憶に残っている。