「初めての人にもオウガという物語の
魅力を伝えるにはどうすればいいだろう」と考え、
文章鍛錬も兼ねて、
つたないながら読み物調に
お送りすることにしました。
いつまで続くか分かりませんが、
よろしくお願いします。
【タクティクスオウガ プロローグ】
血煙が舞い、熱せられた風が
冬の冷気を退ける。
降り続く粉雪さえかすませる
圧倒的な赤が、
夜の底に横たわる闇を奪い尽くしていた。
海洋貿易で栄えるヴァレリア島南部の
港町ゴリアテ。
少数民族であるウォルスタ人の
自治区である小さな町は、
正体不明の騎士たちによる
襲撃を受けていた。
長い夜。
醒めない悪夢。
終わらないと思われた惨劇を
唐突に締めくくったのは、
一人の神父の拘束だった。
教会から連れ出された神父は
両脇を固められ、
焦げ果てた石畳の上を
無理やりに連れ去られて行く。
どこの町でも見かけるような、
低位の聖職者だった。
質素な身なりで、
目を引くものは何もない。
にも関わらず、
とるに足らない田舎神父の姿を認めるなり、
揃いの甲冑で身を固めた騎士たちは
にわかに色めきたったのである。
「待て!」
一人の少年が制止の手を振りはらって
神父を追うように飛び出してきた。
「父さん!」
名をデニム・パウエル。
神父の息子である。
「父さんを放せ!」
父の背を取り戻そうと、
彼は地面を蹴り上げた。
しかし、伸ばした腕は宙をかき、
その視界は落下する。
誰かがほとんど圧し掛かる勢いで
背後からすがりついたのだ。
「だめよ、デニム!」
デニムの姉カチュアだった。
泣いているのだろう。
押しつけられた身体からは
大きな震えが伝わってくる。
「嫌よ! 貴方まで死んじゃうわ!」
「だけど、姉さん! 父さんが!」
怒鳴り返しながら、
デニムもまた分かっていた。
ここで走りだすことは
すなわち死を意味するのだと。
「父さんが、」
屈強で物騒な獲物を携えた騎士たちが、
あざ笑うようにこちらを一瞥する。
カッと頭に血がのぼった。
「デニム。お願いよ、こらえて」
姉の叱咤は熱にぬかるみ、
哀切な懇願となる。
そうこうしている間にも
父は馬上にさらわれた。
にじみ絵の陰影だけを残して
粉雪の向こう側へとその姿を消していく。
「そんな」
振り返ると、姉はうつむいていた。
その顔は蝋のように白く、
血の気が引いてしまっている。
それでも触れる部分からは、
確かにぬくもりが伝わってきて、
これが夢ではないことを
はっきり教えてくれていた。
不意にデニムは愛情とも、
苛立ちともつかぬ衝動に突きあげられる。
「クソッ!」
行き場のない拳を
地面へと振りおろした。
石畳は音を吸い込み、
ただ毒々しく照り返すのみだった。
続