5月22日付米紙NY Daily Newsは、オバマの広島訪問について、私の親しい友人で、米国のドキュメンタリー作家であるIan Tollの論文を掲載した。
 http://www.nydailynews.com/opinion/ian-w-toll-atomic-bomb-not-article-1.2644408

 最初にお断りするが、友人の作品だから御紹介するのではない。論文自体が深い感動を呼び起こす名文だと思うからだ。長文なので和訳はつけない。淡々と書き綴りながらも、中味が濃く深く、英語の表現力も素晴らしく、辞書をひきながらでも、じっくり読む価値があるように思う。

 Ian Tollは、子供の頃親と一緒に日本での居住・通学経験あり、その後来日して、広島もじっくり訪問している。また、金融問題及び世界の海戦史ともに極めて造詣が深く、特に太平洋戦争史「Pacific Crucible(太平洋の試練:2013年文藝春秋)」は、海外で好評であった(英文の初版は2012年NORTON社)。

 今回の論文の標題は、「オバマのヒロシマ訪問は正しい。原爆の謝罪をしないのも正しいが、歴史の審判は複雑である」となっている。
 相当に長文だが、米国人の複雑な心理に配慮しつつ、ゆっくりと冷静に説き進める論法で、米国人に「ヒロシマ」に関する問題提起を試みている。
 特に、最終の結論部分は強烈である。歴史家としては、過去の見方に必ずしも拘らず、常に歴史は問い直さねばならないとしつつも、「原爆投下が日本本土侵攻に代わるべき最後の手段だったとは思わない。この様な意見は、自分1人ではない」として、数人の高名な米国人の言葉を引用している。
 まず、Ianの父親や私の共通の友人であった戦略家ポール・ニッツェの主張を引用して、「日本本土への侵攻の必要性は、原爆投下の有無に拘わらず、発生していなかった」とし、アイゼンハワー大統領も、原爆投下は全く不必要だったとの意見であったとしている。また、日本占領の総司令官マッカーサー元帥でさえ、身内には、時には感情を露わにしながら、原爆投下は不必要だったと述べていた」と結んでいる。
 彼自身もこの結論に至るには苦悩したことだろうと思う。米国は、戦争史上、核兵器を使用した唯一の国である。また、ヒロシマ・ナガサキを知れば知るほど、原爆投下が無辜の民を対象にした残忍無比な行為であったと感じるようにもなろう。
 そして、良心的な人間であればあるほど、米国人として、原爆投下をどう受け止めるのか、どう考えれば正当化出来るか、あるいは出来ないのか、長らく苦吟してきたに違いない。
 それが公然と言える米国は、衰えたりとはいえ、依然基本的に健全で強靱な国だと思う。
 英語を読める方々には、是非原文を読んで頂きたいと思う。