布団男 | 若端創作文章工房

布団男

 もう秋も深まる十月下旬の朝、僕は眠い目をこすりながら家を出た。

 今日もいつものように会社へと足を運ぶ、いつもと変わらぬ朝。


「はわわわわぁぁぁぁ~、眠い」


 僕は眠い目をこすりながら駅へと向かった。

 その時である。


「……呼んだか?」


 その声は、何と僕の足元から聞えてきた! 恐る恐る僕は下を見ると、僕の視界に異様な光景が飛び込んできた。

 そう、布団だ。しかも、道路に敷かれている。そしてその中にうつ伏せになって入っている男が、その声の主らしい。

 男は僕の顔を見てニヤリと笑った。


「……あ、あんた誰だ!?」


 僕でなくても発せられるその質問に、男はこう答えた。


「そうだな。さしずめ『布団男』とでもしておこうか」

「そのまんまだ! それよりなんで、あんたそんなところにそんな格好でいるんだ!?」


 僕は焦りながら彼にこう聞いた。その問いに、彼は口元に薄気味悪い笑みを浮かべながらこう答えた。


「寒い季節、朝の布団は気持ちが良いぜっ!」

「いや、それは分かり切ってる! 痛いくらいに気持ちは判る! しかし聞きたいのはそんな事じゃなく、なんでこんな所まで布団の中に包まっているんだ!?」

「ふっ……そりゃ、布団から出たくないに決まっている。だから、布団に包まったままこうやって動く術を身に付けたのではないか!」


 そう、驚くべく事に、この布団男、布団に包まったまま移動していたのだ!


 布団男は更に続ける。

「もはや布団に包まったまま食事は当たり前! 今の時代は、布団に包まったまま買出しに行く事が常識なのだ!」

「……あんた、布団に包まっている割には元気だな」

「おうよっ! 布団の温もりがある限り、俺はいつでも元気百倍だ!」


 布団男はそう叫んだ後、急に黙りこくってしまった。


「……って、寝るなよ」

「……はっ! やはり朝の二度寝も気持ち良いぜ!」


 完全に僕の思考は混乱した。だが、少なくともこの男にかまけている暇は無い。僕は先を急ぐ事にした。

 だが、布団男は僕の足を掴み、放さない。


「さぁ、一緒に気持ち良くなるんだ!」

「その表現はヤメロ! いい加減に放せ!」


 だが、布団男は僕を放さないので、僕は最後の手段に訴える事にした!

 僕は布団男の掛け布団の端を掴み、一気に掛け布団を剥いだ!


 布団を取られた布団男は縮こまり、震え出した!


「さ……寒い! ストーブ! ストーブは何処だ!?」

「いいから起きやがれ!」


 僕は敷き布団から布団男を蹴り出し、その辺の物干し竿に掛け布団、敷き布団、そして布団男まで吊り下げる!


「何をするんだ!?」

「いつまでも布団に入ってたら、臭い上にダニだらけだろっ! そのまま干されてろっ!」


 僕は布団もろとも布団男を干して、会社に向かった。




 翌日……


 今日も昨日と同じ朝が来る。眠いけど、頑張ろう。そう思った時だった。


「……呼んだか?」

「て……テメェ! 昨日干されたはずじゃなかったのか!?」

「おうよっ! 天日で干された布団は、一層気持ちが良いぜっ!」



 ……いいから、起きて動けよ……。


---


 madridさんのブログのこの記事 を読んで閃きました。

 いや、当初は秘密結社の改造人間みたいなイメージで考えていたんですが(爆)


「ふはははは! 出たな仮面◎イダー! だが、俺の布団は気持ちが良いぜ!

 いや、布団が気持ち良いんじゃない! この俺が気持ち良いんだ!」


 ……みたいなノリですが、戦うヒーローを考える必要があったので、それは挫折しました(爆)


 まぁ、結果、なんだか訳わかんない作品になっちまいましたが(自滅)



 最後に、閃きをくれたmadridさん、ありがとうございました。