少女が見た幽霊 | 若端創作文章工房

少女が見た幽霊


 …恐くないわけなんて無い…


 …でも、このまま生き続けることなんて、耐えられない…


 …お母さん、お父さん、こんな私を今まで育ててくれて、ありがとう…


 深山 美雪(14歳、中2)は、人寄らぬ廃屋の中で呆然と立っていた。手には3枚の白い封筒と、ロープ…
 彼女は学校で目立った存在では無かった。でが、ふとした事でクラスメートから軽蔑の目で見られ、誹謗中傷や無視、そして直接的な嫌がらせの的となった。所謂『いじめ』の対象となっていたのである。
 それでも彼女は親に迷惑を掛けまいとただ黙って耐えていたのだが、日に日にいじめはエスカレートし、遂には生きる事に絶望を感じてしまったのだ。

 それが、彼女に死を決意させた経緯である。

 美雪はロープを梁に結びつけ、それを吊り下げた。あとは、このロープに自分の首を掛ければ、全てから解放される。
 そう思ってロープに手を掛けた瞬間である。

「パァ! 出ッたぁ!!」

 突如響いたその声に、美雪は思わずロープから手を離し、その場に尻餅をついてしまった。
(…え? ここには誰も人がいないはずなのに…)
 そう思いながらその場を見ると、そこにいたのは人ではなかった。そう、人の形はしているのだが、明らかに透き通っており、しかもその身体は白い全身タイツ姿で、その顔は…何故か根拠の無い自信に満ち溢れているような表情の男であった。
 美雪は恐る恐る、彼に聞いてみた。
「…あの…あなた…だれですか?」
 すると男は突然しゃがみこみ、
「…ど…ど…どっどっどどどどどど…ドカァァァーン!
 と叫びながら立ち上がり、
「と一発! 山本 大爆発でーっす!」
 と、自信満々に自己紹介した。美雪は彼の無意味な勢いの良さにただ呆然と立ち尽くしていただけであった。
 山本は続ける。


「ショートコント『自殺』。
 うわぁぁぁん、皆が僕の事いじめるよォ! こうなったら死んでやるぅ!
 バーン!
 あれ…俺死んでへん…? あ、そうか、俺元々死んでるやんっ!


 その場に白けた空気だけが流れた。
 ふと、美雪が山本に尋ねる。
「あの…もしかして貴方…幽霊?」
「アホゥ! この世に妖怪や幽霊の類なんておるかいっ! 確かに俺は死んでるがな…って、コラーッ! 思い切り幽霊やん俺!」
 幽霊の割りに妙にテンションの高い山本の前に、美雪はただ唖然と立ち尽くしていた。だが、ふと自分の目的を思い出し、山本にこう聞いた。
「死ぬのって…楽しいんですか?」
「わからへんっ!」
 その問いに、山本は勢い良く即答した。
 その時、美雪の脳裏には…
(なんか…死ぬ前に幽霊に会うなんて思わなかったけど…もうどうだっていい…
 私ももうすぐ死ぬんだから…この世の苦しみから解放されるんだから…)
 と言う思考が流れていた。
 彼女は思い直し、ロープに手を掛けなおす。
「あー、お姉ちゃん。何しとるんや?」
 山本が声を掛けるが、美雪は思いつめた表情でこう返す。
「…私もこれから貴方の仲間になるところです…」
「あー、相方は募集しとらんがな」
「…いや、そういう問題じゃなくて!」
 山本の少しズレた言葉に美雪はこう返すと、顎にロープを掛けた。
「おい、おい! 死んだらアカン! 考え直せ!」
「…さよなら…」
 そういい残し、美雪が飛び降りる…と思った瞬間である!
「ホンマ、アカンて!!」
 美雪の身体は突如宙に弾かれた!
 そう、叫びと共に山本が体当たりで彼女の身体を突き飛ばしたのだ。幽霊の体当たりが何故効いたかは謎であるが、山本は彼女を助けたのである。だが…!?

 美雪がその身体を起こす。
「…私…死んでないの!?」
 そして、次に彼女が見たものは、ロープが顎に引っ掛かって首吊り状態で苦しんでいる山本の姿だった! どうやら美雪を突き飛ばした拍子に何故か引っ掛かったのだろう。
「ぐえぇぇぇぇ! 死ぬ死ぬ死ぬ! 苦しい! 誰かヘルプミィィィ! 死んでまう死んでまう…ってバカ!!俺元々死んでるやんっ!!」
 ようやく自分が幽霊である事を自覚した山本。そんな彼を、美雪は睨みつけていた。
「何で! 何で…私を死なせてくれなかったの! 私を…楽にしてくれなかったの!」
 そう叫び、美雪はその場に泣き崩れた。それを見て山本は、
「…幽霊の俺でよかったら、話聞こか?」
と、優しく声を掛けた。


 美雪は全てを山本に話した。今まで友人や親にも話せなかった、学校で受けたいじめの事全て。
 山本は黙ってそれを聞いた後、美雪にこう語り始める。
「…なぁ、先の事に悲観して死にたくなると言う気持ち、解らんでも無いが、死んだらあかんて」
「死んだ人に言われても説得力ありません」
「アホ! 俺だって好きで死んだ訳やあらへん」
「好きで死ぬ人なんて誰もいませ…」
 そこまで言いかけて、美雪はふと気が付いた。そう、いた。好きで死のうとしている人が、ここにいた。
(…もしかして、私、物凄く馬鹿な事しようとしたの?)


 更に山本が続ける。
「あのな、俺芸人やで。人を笑わせることがホンマに好きでな。せやけど、売れへんかったんや。それである日、ヒーロー爆死なんてネタやってな、ホンマに爆死したんや。まぁ、それでも誰も笑わへんかったけどな…」
 語り終わって思わず合掌する山本。それを見て美雪はこう返す。
「それ、死んだら誰も笑いません…・・・!?」
 そこまで言いかけて、美雪はまた何かに気付いた。そう、死んでしまっては誰も笑わない。笑うどころか、父や母、そして友人が悲しむだけだ、と。
(…父さんや母さんに心配させたくないのに…かえって悲しむよね、これって・・・)
 美雪の眼から、大粒の涙が零れ落ちてきた。
(私って…何やってんだろう…本当に…バカ…)
 美雪はすすり泣いていた。そんな彼女を、山本は温かい目で見つめていた。


「本当に、私、バカですよね…。こんな所で死んでも、無意味だし、それに、死んだら悲しみも無いけど、楽しみ、それに幸せも無いもん…」
 美雪は涙を流しながら山本にこう告げた。山本は暖かい笑顔でこう返す。
「せやろ。死んだところで俺の相方になれへんのや!」
「そういう問題じゃないでしょ…」
 美雪は涙を流しながら笑った。その表情には、先ほどまで見せていた絶望感は消えていた。


「ありがとう、山本さん。私、悲しんで死ぬより笑って生きて行きます!」
 廃屋に向かって、美雪は手を振った。
「おう! もし困ったらいつでもおいで。俺のネタで笑わしたるで!」
「失礼ですが、貴方のネタは笑えませんよ!」
 美雪は山本にそう告げて、笑顔で廃屋を後にした。そして白い封筒を引き裂きながら家路に就いた。
(そうだよね…どうせ生きるなら、何があっても笑って生きないと。どんな苦難があっても、笑顔で乗り切ってやるんだ!)
 その顔にはもう、迷いなどなかった。


  
 【薀蓄】
  ここ数年間、少年の自殺件数は500~600人前後に推移している。
  データ元 http://ms-t.jp/Domestic-statistics/Data/Transition-statistics.html
  その全ての原因がいじめでは無いが、いじめによる自殺は決して後を絶たない。


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 はい、彦さんの『飲酒運転死亡事故撲滅キャンペーン~物書きに出来る事~ 』の二番煎じのような気もするのですが(爆)

最近のいじめ問題を考えた時、ふと3本ほど文章を思いついたので、いっそこのようなキャンペーンを展開する事にしました。

ならばいっその事と思い、ブック を作成してみたので、宜しかったら参加してみてください。

尚、TBによる参加も募集しております。


 山本大爆発ですが、『ますだ・おかだ』の岡田さんがモデルだと言う事は、実は秘密です(ォィ)

 まぁ、岡田さんは滑る事はあっても爆死することはまず無いと思いますがwww

参照作品 【幽霊との遭遇】 http://ameblo.jp/jyo-wakabata/entry-10015202375.html


 ちなみに、若端としては3本予定しております。

 2本目は…またどこかで見たような若端キャラ登場予定です。