明智ノート  PAGE.5「激走!マッハババア!!(前編)」 | 若端創作文章工房

明智ノート  PAGE.5「激走!マッハババア!!(前編)」

 俺の住んでいる街から約40Km離れた山道で、それは目撃された。


 時は夜。鉄の馬に乗った男達が、スピードと言う快感に酔いしれていた。
「へっ!俺のGSXに追い付いてみやがれ!!」
「なんの!俺のTZRの方が速いぞ!!」
 二人は爆音を響かせながら、トンネルに突入した。
「な・・・何だ・・・・?」
 銀のGSXに乗った男がバックミラーを見てふと呟いた。そこには、一人の老婆が
疾走する姿が映っていた。
「何だ・・・・・あのババアは・・・」
 老婆は彼等に向かって異常なスピードで、不気味に笑いながら走っていた。
 バイクに乗った男達はあまりの不気味さにおののき、アクセルを全開にしてその場
を一刻も早く離れようとしていた。が、彼等と老婆の距離は縮まる一方であった。
 そして遂に、老婆は彼等のバイクを追い抜き、そのままトンネルの彼方へ消えてい
った。
「い・・・一体・・・・・何だったんだ・・・・・???」
 それを目撃した彼等は、背中に冷たいものを感じていた。


「何だって!」
 俺はカップラーメンを食べながら叫んでいた。俺の前には見慣れた顔の男がいる。
「今のは、私のバイク仲間の証言だ。それを見たのは1週間前らしい。」
 藤山 謙二は話し終えるとコーヒーを一気に飲み干した。
「それで?」
 俺はカップラーメンの汁を啜りながら藤山に聞いた。藤山は、煙草に火を付け、一
回煙を吐くと、こう答えた。
「私が思うには、あれは霊か何かだと思うんだが、いまいち確信が掴めない。」
 俺は、一瞬いやな予感がした。
「そこで、お前を見込んで頼みがある。」
「正体を見てきてくれ・・・はごめんだぜ。」
 頼みというのは殆ど見当が付く。俺は藤山の言葉が終わらない内に回答した。藤山
は苦笑しながら煙を吸い込み、口からまた煙を出しながら話し出した。
「解ってるじゃないか。でも、ダイレクトに言えばそう返ってくる事は解っている。」
「それ以前に、あの山までの交通手段は一体どうするつもりだ?」
 俺は訊いてみた。
「私のバイクに二人乗りで十分だ。」
 藤山は冷静に答えた。しかし、それだけでは俺の心を動かす訳が無かった。
「面倒だ。パス!パス!」
 俺はカップラーメンの容器を投げ捨てながらこう答えた。しかし、藤山は更にこう
加えた。
「引き受けたら、明日ピザおごってやろうと思ったのに・・・」
 俺はその二文字に弱かった。当然、二つ返事で了承した。


 その日の深夜、俺達は問題のトンネルの前にいた。深夜のトンネルは、いつ見ても
不気味な物である。
「本当にここなんだろうな。」
 今まで尻に感じていた不快な震動から開放された俺は、藤山に聞いてみた。
「ああ・・・彼等の話から、ここに間違いない。ここであの婆さんが出てくるのを待
つしか無さそうだ・・・」
「いや。もっと手っ取り早い方法がある。」
 俺の考えとは、藤山が、トンネルの中を走りその老婆をおびき出し、俺はトンネル
の出口でその正体を見ると言うものだった。トンネルの長さは約1000m。自分の
足で走れない距離ではない。
「でも・・・婆さんの被害にあうのは私か・・・?」
 藤山は不安そうに呟いた。
「大丈夫だ。まさか命までは取りはしないだろう。では、5分後にスタートしてくれ。」
「了解。」
 藤山は諦めたような顔で返答した。俺はそれを確認すると、不気味なトンネルに向
かって走り出した。


 俺が走ること約500m。俺の耳に足音のような物が響いたのはその頃である。
 足音と同時に、気持ち悪い笑い声が響いてきた。俺は本能的に走るペースを上げた。
が、足音は徐々に大きくなっていく。
(あれが噂の!)
 俺はそう思い、後ろを振り向いた。次の瞬間、俺の目に映ったのはトンネルのライ
トの明かりに照らされた老婆の姿だった。
 老婆は今や俺を追い越そうとしていた。俺はこの時しかないと思い、叫ぶように老
婆に話しかけた。
「待ってくれ!!!」
 しかし、老婆は俺の方を向き、あざけ笑うかのように高笑いすると、トンネルの彼
方に消えていった。
「畜生・・・なんてババアだ・・・」
 俺はそう呟くと、走るのを止め、地面に座り込んだ。心臓の音が俺の耳に低く響い
ていた。


「どうした?明智。」
 藤山はトンネルの途中で俺を見つけると、このように聞いてきた。
「どうやら噂は本当だった・・・・」
 俺は藤山に今までのいきさつを話した。結局老婆の正体が解らなかった事も・・・
 そして、俺の心の中に一つの決意が生まれた。
「あのババア!必ず正体暴いてやる!」