肝試し | 若端創作文章工房

肝試し

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「肝試しに行かないか?」
 そう切り出したのは山田である。皆の目が急に輝き出した。
「へぇ、で、どこに行く?」
「決まってんだろ!? 肝試しといったら墓場だろやっぱり!」
 そう言い切ったのも山田である。
「おいおい、そりゃベタ過ぎだろ。大体夜の墓場なんて今更怖くも無いだろ」
 そう反論したのは田中。
「ほほう! じゃあ、もっと怖いところがあると言うのか?」
「ああ、この近くにある廃屋なんだが、有名な心霊スポットらしいぜ。なんでも、もともと金持ちの家らしいけど、事業失敗で一家全員その家で自殺したらしく、その怨念が今でも残っているって話だ」
「そこって、もしかして霊能力者が裸足で逃げ出したっと噂もあるよな」
「でも、所詮は都市伝説じゃん。折角肝試しするなら、いいところ知ってるぜ」
 中村がこう切りだした。
「まずは、中華料理『爆龍軒』でレバニラ食べて、フランス料理屋『エスカルゴ』でフォアグラ、そして懐石料理『置石』であんきも…」
「肝試しだけに肝料理ってかっ! 単なる駄洒落かっ!」
「ボケるのは安直刑事だけで充分だろっ! ふざけんな!」
 中村はまたも三人に痛めつけられた。
「…ふっ、滅びた」
「でも、あそこ以上のスポットって無いよな」
 その時、村山が口を開く。
「あるぜ。しかも取って置きのがな」
「ああ? それって何処だよ?」
 そおの田中の問いに、村山が自信ありげにこう答えた。
この町の西にある山なんだが、そこの旧国道、10年前にトンネルが出来て以来『暫くの間通行止め』になったきり放置状態になっているんだ。自転車でなら通れそうだが、どうだ? そこならいい肝試しになるぜ?


廃道入り口(r121)

(写真はイメージです。 本文とは一切関係がありません)


「…確かに怖いが…」
「つーか、それは『得体の知れない物への恐怖』じゃなくて『差し迫る危険への恐怖』だから、止めとけ!」
 どっちみち、心霊スポットの話からかけ離れているのは確かである。



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『夏の夜』シリーズの第2段です。


一回は旧廃道ネタ書いてみたかったです。(爆)


ちなみに、廃道に進入するのは大きなリスク(自分だけでなく、自分の周囲の人にも)を伴います。最悪、死亡する危険性があります。どうしても探究心を抑えられない方は、充分な装備と覚悟と自己責任を携行してください。少なくとも、当サイトでは一切の責任を負いません。