週刊テヅカジン

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手束仁が語る、週刊webエッセイ

 タイトルもちょっとセンセーショナルと言うか、トリッキーだし、予告編でも興味を惹かれていた作品。『夏目アラタの結婚』(堤幸彦監督/徳永友一脚本)である。同名で乃木坂太郎の原作があるということである。もっとも、ボクとしては、その内容に関しての予備知識はないので、まさに素の状態でこの作品と対峙した。

 主人公が、女性の死刑囚と結婚するという内容も衝撃的である。しかも、エンターテインメント能力は高いんではないかと思っている堤幸彦作品である。ということで、ボクとしての期待値も高かった作品ではある。

 ただ、ボクが期待していたというか、ある程度イメージしていた展開とは、やや異なっていた。もう一つはぐらかされたというか、まぁ、こっちの勝手な期待とは少し違ったかなというのが、正直なところでもあったかなぁ。

 法廷映画のようで、そういうわけでもない。人は、他人の生い立ちや過去にどこまで触れられるのか、どこまで入り込んでいっていいのか。そんなことを思わせてくれるということでは、作品の中に背骨はしっかりと通っていたのかなぁとは思う。

 品川ピエロと呼ばれた若い女性の死刑囚。ピエロの衣装で殺人を繰り返したと言われていたという罪で拘留されていた品川真珠という女性。その女性に児童相談所に勤務するという元ヤンの若い男(柳楽優弥)が、とあることで面会に行って突然プロポーズする。

 それからは、拘置所のわずかな面会時間の間にお互いの過去や気持ちを吐露していく。そんなゲームのような交際をしていく中で、事件の真相を探していく。そうすることで、彼女の過去や生い立ちが少しずつ分かっていく。

 果たして品川ピエロと言われていた女性は何者なのか…。彼女は、本当に三人もの男を殺害したのだろうか…。幼少時は肥満気味で仲間外れにされていた、決してきれいでも可愛くもない、歯並びの悪い、どちらかと言うとブスッ子だった。ただ「赤とんぼ」の歌だけはとても上手だった。そんな少女である。

 そんな彼女が法廷に姿を現すと、美しくて魅力的な女子(黒島結菜)になっていた。どうしてそんな変貌を遂げられたのか。しかも、自分のことを「ボク」と呼び、本心は何を考えているのかわからない不思議な女子である。その本当の年齢もわからないし、彼女はいったい何を求めているのか、どういう意図をもって獄中結婚を受け入れたのか…。そういう疑問にも、むしろ引っ張られながら観ていたということか。

 わかるようでわからないところもあった。謎解きではないけれども、どうなっていくのかな…という興味はずっと持たせてくれたし、それに引っ張られて最後まで観たという感じでもあった。で…、どうだったの…?  と言われると、何となく一言では言えないような、そんな不思議な映画でもあったのだけれども。果たして、人は過去とどこまで向き合っていくのか、どこまで引きずっていくのか、そんなこともふと思わされた映画でもあった。

 スクリーンには、随所にボクの今住んでいる地元と言うか、自転車で横切っていることも多い、隅田川の光景がよく映されていたのは嬉しかった。そして、その隅田川テラスで若い弁護士と主人公が語るシーンなんかも、ボクも隅田川テラスを散歩することもよくあるので、悪くはなかったと思っていた。