今日はこんなお話を。

あなたはスマホで、あるセキュリティアプリを300円で購入しインストールしたとしましょう。しかし、このアプリを購入する際には、同時に、全くあなたの使わないであろう、つまらなさそうな、ゲームアプリも同時にインストールしてしまうというものでした。
これが世にいう「抱き合わせ販売」と呼ばれるものであり、日本では独占禁止法2条9項6号二、一般指定(これは、一般に、公正取引委員会が「告示」という形で定めた「不公正な取引方法」(昭和57年公取委告示)のことです)10項に当たり、独禁法19条に違反するものだとされています。このことからわかるように、抱き合わせは、独禁法の4つの違法類型の柱(私的独占・不当な取引制限・企業結合・不公正な取引方法)のうち、「不公正な取引方法」と呼ばれるの類型の1つです。

では、なぜ抱き合わせは違法なのでしょうか。
例えば、世の中には「セット販売」なるものもあり、例えば、ランチの定食も一種のセット販売だといえます。しかし、このセット販売は「これで1つの商品だ」と考えられているために、適法だというわけです。言い換えれば、2種類以上の商品が、それぞれが別の市場を形成する場合には、これらは別個の商品だということになり、それを組み合わせた場合には原則として「抱き合わせ」だということになります。
「セット販売」でもそのような「抱き合わせ」になっているものは多く存在しています。しかし、世の中の「抱き合わせ」の全てが違法なわけではありません。そもそも不公正な取引方法に当たるためには「公正な競争を阻害するおそれ」(独禁法2条9項6号柱書)が必要だと考えられ、実際に、一般指定10項も「不当に」という言葉を用いてこの公正競争阻害性を要求します。
では、なぜ、抱き合わせは「公正競争阻害性」を持つ場合があるのでしょうか。それは、複数の商品のうち、需要者が真に欲している「主たる商品」とは別に、「これはいらないんだけど…」という「従たる商品」をも買わされてしまうことにあります。ここでは2つの側面があります。1つは、そういう無理やり買わされる従たる商品の価格を主たる商品の価格に転嫁させることで、売り手が買い手から搾取できるという点です。これは主たる商品の顧客誘引性が高い場合にはより強く表れます。逆に、主たる商品は顧客誘引性が高いのに、従たる商品はそうではない、「余り物」であることが多いわけです。有名なところでは、マイクロソフト社がエクセルをパソコンメーカーに売るのに、あまり市場シェアの高くなかったワードやアウトルックを抱きわせたことが、違法評価されたものがあります(公取委勧告審決平成10年12月14日)。そしてもう1つは、従たる市場の市場シェアを上げるというものです。これは、上記のマイクロソフト事件でも明らかですが、主たる商品の顧客誘引力を使って従たる商品のシェアを拡大させるという手段の不公正さや、価格の引き上げが可能になるかもしれない(二重表現のようですが、これで間違いありません)という点が公正な競争政策上問題があるというわけです。

人気ブログランキングへ