一つ前のブログが文字数超過でしたので、最後の部分です。

 

もしも「小池首相」が誕生したら

 近藤: それから2年半以上が経ち、来月5日に再び、東京都知事選を迎えます。そんな折、新型コロナウイルスが日本を襲い、再び小池都知事が連日、テレビに登場するようになっています。  『週刊文春』(4月23日号)は「小池百合子 血税9億円CM 条件は『私の出演』」と題した特集記事を出して、「小池都知事はコロナウイルスを選挙に利用している」と批判しました。私も渋谷のスクランブル交差点の電光掲示板でこのCMを目にして、「これは選挙CMではないか」と、思わず足を止めてしまいました。  

 

石井: 本書の発売が都知事選の直前になったことは、まったくの偶然なんです。つまり、出版社側はもっと早く出したかったのですが、調べ物や検証に時間がかかったこともあり、また、私が遅筆で迷惑をかけました。  「政治的意図をもって出版されたのではないか」と一部で語られているようですが、もちろん、いかなる政治団体とも私は結びついていませんし、政治記者や政治ジャーナリストでもありません。小池都知事に対する個人的な恨みもないです。世論を誘導しよう、世の中を変えよう、選挙に影響を与えよう、などと考えて、本書を執筆したわけではありません。結果としてなることは、あるのかもしれませんが。  ノンフィクション作家のやるべきことは、事実の追求に尽きると思います。作品をどう読むか、小池百合子という人物をどう見るかは読者の判断に委ねたいです。読者には自由に読んで欲しいし、それを作者が邪魔してはいけないと思っています。  私にとっては彼女を軸にして、平成30年の日本政治史を振り返る作業でもありました。私が成人してからの年月に比例する。自分の生きた時代を書いた、という実感はあります。  

 

近藤: なるほど。それでは最後の質問です。小池都知事の野望は、明確だと思います。すなわち、来月の都知事選で圧勝し、来夏の東京オリンピック・パラリンピックも成功させる。ついでに来夏の東京都議会選挙にも勝つ。そしてこれらをバックにして国政に復帰し、「ポスト安倍」を目指すというものです。  彼女がどんな野望を抱こうが自由ですが、現在は1300万都民の生殺与奪を握り、首相になれば1億2000万国民の生殺与奪を握るわけです。本書の帯には、「救世主か? “怪物”か? 彼女の真の姿。」と書いてありますが、444ページを貫いている「彼女の真の姿」は、「救世主」ではなく「怪物」です。  自民党には、かつて彼女に裏切られた同志がゴマンといるから、彼女はまず野党連合を目指すでしょう。その際、カギを握る一人になるかもしれないのが、いまコロナ対策で人気沸騰している吉村洋文大阪府知事(維新の党)です。その吉村府知事と先月、直接話す機会があったので、「近い将来、『小池総理』を担ぐ意志はありますか?」と聞いたら、「それはありません」と言下に否定しました。  維新の会が味方にならないとすると、自民党二階派を小池派に模様替えしようとするのかもしれない。ともかく来年、小池氏は、年齢から言っても、人生を賭けた最後の大勝負に出るでしょう。  ズバリ、小池氏が本物の女帝に、すなわち女性初の総理になる可能性はあると思いますか?   

 

石井: 私は小池氏の半生をつぶさに追いかけて、彼女がここまで上り詰めてしまったことが不思議でならないんです。言葉を代えて言うと、そのこと自体が、日本社会の「危うさ」を表していると思います。  現段階から、さらに階段を上がっていく姿は、私にはあまり想像できないのですが、最後は運次第でしょうね。ただ、もしも小池首相が誕生したら、日本中が彼女に振り回されると思います。彼女自身が自分の業に振り回されているのですから。  

 

近藤: 「運次第」ですか――。私が研究している中国政治の世界に、「小事は智によって成し、大事は徳によって成すが、最大事は運によって成す」という言葉があります。小池氏の強運は尽きるのか、尽きないのか。  それから、「もしも小池首相が誕生したら、日本中が振り回される」というのも、本書を読んだら、十分理解できます。その意味でも、多くの人に『女帝 小池百合子』を手にとって自分の問題として考えてもらいたいです。  

 

撮影:西崎進也 ---------- 石井妙子(いしい・たえこ) 1969年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。白百合女子大学卒、同大学院修士課程修了。5年をかけた綿密な取材をもとに『おそめ』(新潮文庫)を発表。伝説的な「銀座マダム」の生涯を浮き彫りにした同書は高い評価を受け、新潮ドキュメント賞、講談社ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞の最終候補となった。『原節子の真実』(新潮社)で新潮ドキュメント賞を受賞。他の著書に『日本の血族』(文春文庫)、『満映とわたし』(岸富美子との共著/文藝春秋)、『日本の天井 時代を変えた「第一号」の女たち』(KADOKAWA)などがある。 ----------

近藤 大介(『週刊現代』特別編集委員)/石井 妙子

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