習近平政権との「対決」を鮮明にした、台湾・蔡英文総統スピーチ全訳

10/15(火) 7:01配信

現代ビジネス

まさかのV字回復

 人間万事塞翁が馬と言うが、政治家もまた然りである。いまから一年近く前の昨年11月24日、台湾の蔡英文総統は統一地方選挙で、自ら率いる民進党(民主進歩党)を歴史的な大敗に追いやった。

中国政府が香港を吸収合併…「一国二制度」が終焉する日

 台湾の計22の市長・知事のうち、それまで民進党は13の地域で首長を占めていて、過半数死守を目標に掲げていた。それなのに、一気に6地域にまで減らしたのだ。

 辛うじて死守したのは、桃園市、台南市、基隆市、嘉義県、新竹市、屏東県のみというありさまで、6勝16敗である。特に、「六都」と呼ばれる台北市、新北市、桃園市、台中市、高雄市、台南市の中で、2都市しか勝てなかった。

 「敗戦投手蔡英文」「民主退歩党」「藍緑版図大洗牌」(青=国民党と、緑=民進党の版図がガラガラポン)……。

 投票が締め切られた午後4時(台湾時間)を過ぎると、インターネットで台湾メディアのこのような遠慮ない見出しが出始め、蔡英文総統は夜9時5分に、民進党の選対本部に現れた。トレードマークの白いシャツに紺のジャケットを羽織っていたが、沈鬱な表情を浮かべており、絞り出すような声で、1分28秒にわたって声明を読み上げた。

 「国の同胞各位、皆さんこんばんは。執政党の主席という身で、まずは本日の地方選挙の結果に対して、私は完全に責任を負っている。いまこの場で、民主進歩党の主席を辞任する。われわれの努力が足りなかった。それによって、一緒に戦ってきた支持者を失望させてしまったことについて、この場で真摯に謝罪する。

 民進党は、民主の価値を信じている。本日、民主はわれわれに、一つの教えを与えてくれた。われわれは謙虚に、国民の新たな要求を受け入れていかねばならない……」

 この時、2020年1月の台湾総統選挙で、蔡英文総統の再任はもはやないと、2300万台湾人は確信した。蔡英文総統の最側近であるナンバー2の頼清徳行政院長(首相)でさえ、この日に蔡総統を見限って、辞表を叩きつけたのだ(頼前院長はその後、民進党の総統候補を決める予備選に出馬したが、今年7月に蔡総統に敗れ去った)。

 なぜこれほど蔡英文民進党が、統一地方選挙で大敗したかと言えば、それはひとえに台湾海峡の向こう側の習近平政権と反目し、それによって台湾経済が低迷したからだった。

 蔡英文総統は、2016年5月に就任して以来、「一つの中国」(中国と台湾は一体であるという認識)を認めず、中国からの独立志向を保持してきた。そのため中国は、両岸(中台)貿易や中国人の台湾観光を制限するなどの制裁に出た。その結果、台湾経済は悪化し、蔡英文政権の支持率は2割台にまで落ち込んだのである。「民主でメシは食えない」ということが言われた。

 ところが今年6月以降、風向きが180度変わった香港で民主化デモが激化すると、蔡英文総統は「今日の香港を明日の台湾にしてはならない」とアピールし、支持率がV字回復していったのである。今度は「民主がないとメシも食えない」というわけだ。

 

蔡英文総統のスピーチ
 
 9月28日、民進党は、第18期第2回全国党員代表大会及び創建33周年記念式典を、台北の丸山大飯店で挙行した。そもそも民進党の創建日は1986年9月28日だが、図らずも習近平主席が主催した中国の建国70周年記念式典(軍事パレード)の3日前にぶつける格好となった。

 

  その民進党の約1時間40分に及んだ式典は、ユーチューブで見られる。

 

  映像を見ると、庶民の言葉である台湾語と、公式の場で使う中国語を織り交ぜた独特の演出だ。民進党は飾らない「庶民の党」であることを再認識させられる。

 

  まずは「表演」(歌や演奏のパフォーマンス)で盛り上げ、創建当時を支えた長老や模範党員らを表彰した。52分くらいから「民進党33年の歴史」を映像で流したが、党名には、「台湾の民主を進歩させる」という目的が込められていたことを知った。

 

  続いて、来年1月11日に総統選挙と同時に行われる立法委員(国会議員)選挙に立候補する70人の公認候補が、一人ずつ紹介された。今回の選挙の民進党のキャッチフレーズは、「台湾要贏世代共贏」(台湾は勝つ、どの世代も共に勝つ)である。

 

  前回の立法委員選挙で、定数113議席のうち、民進党は68議席を得て、ライバルの国民党の35議席に、ダブルスコア近くをつけた。今回は70人の候補を公認し、過半数の57議席獲得を目標にしている。

  蔡英文総統がどこにいるのかと思いきや、冒頭述べた昨年11月の統一地方選挙で党主席を辞任しているので、客席に座っていた。胸に「928」(9月28日の意)のマークを付けた緑色(民進党の党色)のジャケットを羽織ったラフな格好だ。彼女が司会者の紹介を受けて壇上に上ったのは、1時間22分が経った時だった。

 

  蔡英文総統は、盛大な拍手を受けて卓榮泰主席と仲睦まじく登壇し、約12分間にわたってスピーチを行った。以下、全文を訳出する。
 
これはライフスタイルと価値観の防衛戦だ
 
 「卓主席、党員代表同志、二人の蘇院長(蘇貞昌行政院長と蘇嘉全立法院長=国会議長)、創党18人小グループの皆さん、そして私の後ろにいる70人の優秀な立法委員候補者たち、各来賓の皆様、こんにちは。

  4年前、私たちは桃園で全国党員代表大会を開いたが、当時、総統候補者だった私は、皆さんにこう訴えた。もし私たちに執政をさせてもらえるなら、全力で仕事にあたり、人々の納得を完全に得られるようにすると。今日は私たちに審判が下される時だ。

  世界のあらゆる政党と同様、執政は挑戦の始まりだ。罪を負うこともあれば、うまくいかないこともある。それでも民進党は、たしかに強靭な政党だ。何度も挫折した後、再び立ち上がったのだから。

  (国民党に政権交代した)2008年の時、誰もが民進党は今後20年以上、政権交代できないと言っていた。また2018年の年末、やはり誰もが民進党は続けて執政できないと言っていた。 だが私たちは覆しつつある。

  私が言いたいのは、民進党の強靭性は、私たちがうまくやっているというだけでなく、毎回挫折するたびに、台湾人が手を差し伸べ、一つの輪になってくれるところにあるのだということだ

 

  このところの卓榮泰主席の指導による党務改造と若年化に感謝したい。また蘇貞昌院長の素晴らしい施政と、立法院での柯總召氏が率いる法案折衝の進捗、蘇嘉全立法院長率いる立法院の法案の順調な通過、県市首長たちのより信頼ある施政にも感謝申し上げる。

  また本日、ご来臨の 游錫?前主席、姚嘉文前主席、許信良前主席、蘇嘉全院長、陳菊秘書長、行政団体の皆さんにも感謝したい。皆で団結して、2020年の選挙で勝利しようではないか! 

  本日、〓清〓前院長はこの場にいないが、過去何年にもわたって党務で努力を重ね、議員になってからも民主の風土をよくした実績があり、この場に欠かせない人だ。今後の選挙戦の中で、必ずや戦友となっていく。私たちは団結した民進党として、未来の大きな挑戦に向かって行くのだ。

  『各世代のウィンウィン』が、今回の大会のテーマだ。私の背後に立つ70人の優秀な立法委員候補は、百戦錬磨の老将あり、経験豊富な中年将軍あり、血気盛んな新進気鋭ありだ。

  政治というのは一つの世代が権限を独占してはダメで、各世代の将軍たちが一緒に国会入りし、一緒に台湾を変えていくのだ

  『2020 台湾勝利』。これは総統選挙に勝つばかりか、国会選挙でも勝たねばならない。私たちは社会と共に進み、各世代が共に勝ち、彼らを国会に送り込むのだ。これからの4年を、再び蔡英文と共に進もうではないか、皆さん! 

  執政は3年にして成る。長期の積弊は改善され、施政の成果を得たと感じる。年金改革、経済システム、社会安全、国家安全などで、成果が出始めている。

  現在の台湾は、外資から見てもよいし、台商(台湾の外で商売する台湾人)が戻ってきている。今年の投資も大いに熱を帯びている。米中貿易戦争や世界経済貿易が激変する中で、台湾の第2四半期の経済成長率は、アジアの4つの小竜(台湾、香港、韓国、シンガポール)の中でトップの成績だ。

  しかしながら、まだまだ十分ではなく、さらによくしていける。昨年の統一地方選挙での敗北の後、私は深く反省した。経済を変転させ、社会を変遷させていく中で、その成果を享受していない人々がいて、まずもって波及させてほしいという声が上がった。

  この3年あまり、私を覚醒させ、批判し、鞭打ってくれた民進党の人たちに感謝申し上げたい。政府というのは苦労している人々のために存在するのだ。過去3年あまりにわたって、私たちは不断にそうした声を具体的政策に転化させてきた。

  本日、特に若いアルバイトの人たちに言いたい。私は彼らが、労多くして収入が少ないことを知っている。それでこの3年、法律を変えて最低賃金を引き上げ、月収3万台湾ドル(約10万6000円)以下の人は所得税を取らないようにした。それによって彼らが少しでも余裕を持てるようにしたのだ。

  介護の問題にしても、とりわけ女性は困っている。介護のために自分の仕事を犠牲にし、生活の向上を犠牲にしている。『長照2.0』(介護のための給付制度)を推し進めているのも、まさにそうした人々を楽にするためだ。

  毎日苦労し、空を見ながら生活している農民のことも話そう。農民が農機具を買って効率化を図るのをサポートし、職場災害保険の保障を手厚くし、かつ農業保険の種類を増やすことで、農民のリスクを緩和した。

  夜の屋台売りの皆さんや小さな商売をやっている皆さんのことも忘れない。環境は常に変わり、商売はよかったり悪かったりだろう。『夜店商用券』で消費を刺激したのは、彼らの元気を保つためだ。私たちは引き続き、彼らのビジネスの転換を補助し、より多元的で便利なシステムが作れるようにする。スマホ決済や交通カード決済などだ。

  電気自動車の衝撃を受けている運転手の皆さん、観光業に従事する皆さんにも言いたい。皆さんが置かれている立場は理解しており、サポートや転化の補助政策を続けて取り、皆さんの受ける衝撃を緩和してきた。まだ道半ばだが、こうした問題を解決する誠意と決意を持ち、引き続き努力していく。

  それ以外にも大変多くの人々、一つ一つ挙げ切れないが、皆さんの苦労を私は知っている。政府はあなたたちのために存在しているのだと信じてほしい。

 過去3年あまり、毎日の業務の中で、多くの人々から『頑張れ総統』という言葉を聞く。彼らの期待は分かっており、政府の努力と心意に対する理解に感謝する。私は必ず頑張る。

  総統選挙を前に、一部の人たちは楽観視している。(勝利を)信じるのはよいことだが、どうか厳しい気持ちを持ってほしい。政局は千変万化するものであり、安心しきってはいけない。

  2020年の戦いにおいて、私たちの対戦相手は国内にだけいるのではなく、さらなる相手は海岸の向こう側にいるのだ。対岸の『文攻武嚇』(非軍事的攻勢と武力威嚇)及び政治介入は、今後増すことはあれ、減ることはない。

  彼らは最も望まないのは蔡英文が再任されることであり、民進党が国会の過半数を獲得することだ彼らが望むのは、何事も北京に頭を下げ、挑発せず、香港の民主的な政権に干渉しないような総統が台湾で選出されることだ。

  今年1月、北京の態度はすでに明らかになった。北京の言ういわゆる『92コンセンサス』(1992年の『一つの中国』の中台合意)の中には、ほとんど中華民国(台湾)の空間がない。北京の圧力に屈服し、彼らのコンセンサスに付和すれば、中華民国は消失し、台湾は消失してしまう。

  皆さん、国際情勢は時々刻々変化しており、私たちは旧い観念に囚われていてはならない。民進党の人間は新たな使命を持っているのだ。次の段階における私たちの使命と任務は、まさに全世界的な思考を用いて、両岸(中台)の枠組みを突破していくことだ。

  台湾はただ両岸の枠組みのもとでの台湾ではなく、世界の中の台湾であるべきだ。台湾人の視線は、台湾海峡にとどまるのではなく、広大な太平洋を見据えるべきだ。

  世界と連結した壮大な台湾、これこそが歴史の中に置かれた民進党の立ち位置だ。私たちは責任を回避してはならない

  2020年は、台湾派であろうと中華民国派であろうと、老年世代、壮年世代、新世代であろうと、手を携えてチャレンジしてこそ、難関を克服できるのだ。

  2020年、台湾は勝利する。これはライフスタイルの防衛戦であり、価値観の防衛戦だ。私たちが勝ってこそ、自分たちの未来を決められるのだ。私たちが勝ってこそ、私たちが行ってきたことの承諾を得て続けられるのだ。

  総統選挙に勝利し、国会議員選挙にも勝利しなければならない。社会は同行を求め、世代は共勝を求めている。私たちは頑張ろうではないか。皆さん、ありがとう」


習近平政権への対抗意識
 
 蔡英文総統は、決して演説が上手な政治家ではない。そもそも法律を専門とする大学教授出身だ。先日、彼女と面会したという私の知人は、「台湾の総統というより、高校の英語教師のような人」と評していた。

  だがこの日は、自信に満ちあふれていた。総統としての風格が感じられ、一年前とは別人のようである。

  「私たちの対戦相手は国内にだけいるのではなく、さらなる相手は海岸の向こう側にいる」

  「北京の圧力に屈服し、彼らのコンセンサスに付和すれば、中華民国は消失し、台湾は消失してしまう」

  こうした言葉に、習近平政権への強い対抗意識を滲ませたのだった。

  蔡英文総統の復活は、重ねて言うが、ひとえに「香港効果」と言えた。6月から続く香港の激しいデモがなかったなら、台湾政治の「主役」は、親中的な国民党の韓国瑜候補(高雄市長)に代わっていたはずだ。

  香港を「中国共産党の色」に染めようとしたこと(逃亡犯条例の改正)が、香港の大規模デモを誘発したので、中国が強権的になるほど台湾の独立志向が強まるということになる。中国側からすれば、香港に加えて、台湾も悩ましいことになっているのである。
  
この日は、会場の全員で「総統連任、国会過半」(総統の連続就任、国会の過半数獲得)を唱えてお開きとなった。
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蔡英文総統、再び登壇
 
 それから3日後の10月1日に、習近平主席が主催して北京で中華人民共和国建国70周年記念式典を、盛大に挙行した。すると台湾は、これに対抗するように、中華民国(台湾)の建国記念日「双十節」にあたる10月10日、台北の総統府前広場で、中華民国建国108周年大会を挙行したのだった。

  2時間20分余りにわたった式典の全編は、やはりユーチューブで見られる。

  最初に中華民国軍の行進が行われた。北京の軍事パレードに較べると、かなり慎ましい。中国と台湾の軍事費は、いまや15倍の開きがあるが、もしも両軍が激突したら、台湾軍はひとたまりもないことが、映像を見て想像できる。台湾側もそうした現実は重々承知しているはずで、テロリストが台湾の一般家屋を占拠した場合にどう撃退するかという実演をやっていた。

  続いて来賓の紹介で、真っ先に紹介されたのが、パラグアイのウーゴ・ベラスケス副大統領だった。司会者も述べていたが、パラグアイは南米で唯一、中国ではなくて台湾と国交を維持している。

  2016年5月に蔡英文総統が就任した時、台湾と国交のある国は22ヵ国あったが、いまや15ヵ国まで減った。今年9月16日にソロモン諸島が、20日にキリバスが断交してしまったのは、まだ記憶に新しい。

  そのため台湾にとって、残り15ヵ国のうち最大級のパラグアイは、絶対的に重要なのである。ちなみに2番手に紹介されたのは、中米グアテマラのハフェット・カブレラ副大統領だった。

  その後、蘇嘉全立法院長(国会議長)の挨拶や「表演」などを経て、59分過ぎに蔡英文総統が登壇。この日はトレードマークの白いシャツに紺のジャケットという公式ルックで、約12分にわたってスピーチを行った。タイトルは「国を堅強にして、世界に前進する」。以下がその全文である。


「私たちは自由と民主の価値観を堅守する」
 
 「大会主席の蘇嘉全院長、ここにおられる来賓各位、テレビやインターネットで見守っている全国の同胞たち、おはよう。本日、中華民国は108年目の国慶日を迎えた。世界各地からお越し下さった友人たちに感謝し、この価値ある記念日を共に祝いたい。

  この日は、全国2300万人のものだ。馬英九前総統、呂秀蓮元副総統、呉敦義前副総統、並びに各政党の主席、共に国慶を祝おうではないか。

  昨年のこの日、私が皆さんに申し上げたのは、台湾はまさに変化の中にあるということだった。世界貿易の情勢の変動、国際政治の情勢の変化などは、すべて未来の挑戦に満ちている。私たちは必ずや『平穏を求め、変化に対応し、進歩を図る』ことを行い、実力をつけて壮大な台湾を築いていく。

  この一年を振り返ると、世界は依然として猛スピードで変化し、しかもますます激烈になりつつある。米中貿易戦争は持続し、私たちから遠くない香港は、『一国二制度』の失敗によって、秩序を失った辺境となってしまった。

  いずれにしても、中国は依然として『一国二制度の台湾方案』をもって、不断に私たちに脅威を与え、各種の『文攻武嚇』政策を取り、地域の安定と平和に強烈に挑戦している。

  国の同胞各位、自由と民主の挑戦を受け、中華民国の生存と発展は脅威を受けており、私たちは必ずや起ち上がって死守せねばならない。『一国二制度』を拒絶し、2300万台湾人は、党派や立場によらず、限りない共通認識を持たねばならない

  中華民国は台湾に屹立してから、すでに70年を超えた。ひとたび『一国二制度』を受け入れたなら、中華民国に生存の空間はなくなってしまう。総統として、国家の主権の守衛にあたり、一大事に至らせることなくすることは、私の最も基本的な責任だ。

  70年来、私たちは様々な挑戦を共に経験してきた。毎回挑戦に遭うたび、私たちは倒されることなく、逆にさらに強壮に、堅強になっていった。

  私たちは『8・23砲戦』(1958年に中国人民解放軍が金門島を攻撃した金門砲戦)や1996年の『台湾海峡危機』(人民解放軍の台湾総統選挙への威嚇)を、共に経験してきた。次から次へと『文攻武嚇』を起こしても、台湾人を屈服させることはできなかった。私たちは共に、足元のこの土地を共同で死守し、同時に国家の主権を死守するのだ。

  私たちは国連から脱退させられるという恐慌を経験し、一ヵ国また一ヵ国という断交の圧力も受けてきた。だが台湾人は世界に向かって行くと決心し、いかなるものも変えずにいる。

  1970年代に石油危機が起こり、1997年にはアジア通過危機が起こった。新世紀のネットバブル崩壊、それに10年前には金融危機が起こった。まことに経済というのは挑戦に満ちている。だがスーツケースを抱えて天下を飛び回る台商、それに勤勉奮闘し創意に満ちた台湾人は、毎回毎回、危機を転機に変え、台湾経済を変わらず前進させてきた。

  私たちは『8・7水害』(1959年に台湾中南部を襲った水害)、『9・21地震』(1999年の台湾大地震)、SARSの猛威、『8・8風災』(2009年に台湾を襲った水害)なども経験した。天変地異は避けにくいが、台湾人の奮闘生存の意志は撃退できない。自宅が破壊されたら再建する。土地が荒らされたら復元する。涙を乾かしたら再び立ち上がる。明日は再び、希望に満ち溢れた一日なのだ。

  これらの共通の記憶は、台湾人の強靭性を増強させた。そしてこうした強靭性のために、私たちはアジアの4つの小竜の一員となった。民主化のジグザグ道を歩み、世界で重要な民主の典範となったのだ。

  私たちは共同でこうした道のりを歩んできたのであり、党派によらず、この地に生活する人間として分けることはできない。中華民国は誰の特許でもなく、台湾は誰の独占物でもない。『中華民国台湾』の6文字は、絶対に青色(国民党の党色)ではないし、緑色(民進党の党色)でもない。このことこそが社会全体の最大のコンセンサスだ。

  未来を展望すると、前方の挑戦はまだ数多くあって、私たちの一回一回の克服を待っている。

  私たちは、中国が台頭、拡張し、権威的体制でもって民族主義と経済パワーを結合させ、自由と民主の価値及び世界秩序に挑戦するのを目の当たりにしている。そのため、インド太平洋地域の戦略の前線に位置する台湾としては、民主的な価値観を守護する第一防衛線になっている。

  中国は『先鋭化した実力』を利用して歩を進めているが、私たちは公明正大に、地域の重要なメンバーとして、台湾の国際的責任をきちんと果たしていく。私たちは挑発に乗ったり冒険を冒したりせず、理念の近い国と結合し、台湾海峡の平和と安定の現状を確保し、ひっくり返されることがないようにする。

  そうしたことをやり遂げるには、必ずや団結が必要だ。台湾社会は民族、世代、信仰、党派の違いはあっても、かつ争いが起こっても、対話を通じて必ずやどちらも受け入れられる最大公約数を見つけられる。経験が証明しているのは、衝突、対話、団結進歩は、国家を正確な方向に前進させるということだ。

  私たちは必ずや、自由と民主の価値観を堅守しなければならない。台湾人は、民主化を阻む道を歩んだり、民主が混乱する時期を経験したことがある。だが、民主的な制度のみが変わることのない自由を保障し、次の世代にも未来を決める権利の保有を譲り渡せるというものだ。

  私たちは壮大な台湾を全面的に維持しなければならない。この3年あまり、私たちは経済システムの調整に努力してきた。産業のグレードアップの転化を導き、国際的な多元化の状況を後押ししてきた。私たちは投資の大きな増加を受け入れ、世界全体の経済の変動の中で、穏やかにステップし、正しい方向に引き続いて前進していく。

  この3年あまり、私たちは社会の公平を維持、保護するよう努力してきた。所得を増やして減税し、全面的なセイフティネットを敷き、すべての人が経済成長の果実を分かち合えるようにした。今後は『長照2.0』のアージョンアップを推進し、幼児の託児補助の拡大を推進し、質の高いサービスを受けられるようにしていくのが、政府が継続して努力していく方向だ。

  この3年あまり、私たちは自主的な国防を推進し、先進的な武器を購入し、戦力の充足を強化してきた。国産のジェットトレーナーの原型機がこのほど工場から出た。国産の艦艇も、建軍の行列に続々加入しつつある。国土を死守し、自由と民主を堅守し、国軍は責務を果たしていく。

  この3年あまり、私たちは積極的に国際的に参与し、責任を負い、貢献を果たし、地域の平和と安定を維持、保護し、善良な精神が欠落することはなかった。私たちは引き続き、理念が近い国家と手を携え、さらに多くの実質的な協力の機会を掴んでいく。

  未来の路線は極めてはっきりしており、目標も極めて明確だ。

  第一に、国民は引き続き、自由と民主の旗の下で団結し、国家の主権を死守していく。
 第二に、壮大な台湾を持続させ、経済の実力を強化し、民を富ませ国を強化していく。
 第三に、積極的に世界に出てゆき、挑戦を克服し、中華民国台湾を国際舞台に台頭させ、勇敢に自信を持つ。

  最新の四半期で、私たちの経済成長率は、アジアの4つの小竜のうちトップに返り咲いた。世界経済フォーラム(WEF)は、台湾を4大『スーパーイノベーション国家』の一角と評している。私たちのハイテクと産業のイノベーションは、世界の最先端を走っているのだ。

  私たちのスポーツ選手、優れた技能を持った人、無数のイノベーションに満ちた設計士、芸術家たちは、国際舞台で発光、発熱し、台湾に栄耀と矜持をもたらしている。

  私たちの国産の『福衛5号』(人工衛星『フォルモサ5号』、2017年8月25日発射)と『福衛7号』(同『7号』、今年6月25日発射)の連続発射は、宇宙空間における科学技術の実力を見せつけた。人類の歴史上、初めて観測されたブラックホールの映像にも、台湾の科学者グループが参与した。

  私たちは宇宙空間に上り、5500万光年の外にあるブラックホールを見られるのだ。それを思えば、眼前にはどんな挑戦があるというのか。私たちは勇気をもって相対していくべきではないのか? 
  歴史の困難には、私たちの強靭性で対抗していける。転化された成長のパワーもある。天災の挑戦には、私たちの努力がある。それに再生の契機にもしていける。この土地で一人一人の努力する人が、あるいはめいめいの努力によって、私たちの国を一日また一日と、さらによくしていけるし、さらに進歩させていけるのだ。

  国慶日のこの一日、この土地に生きるすべての人が、自由と民主の旗の下に団結し、未来に向かって楽観し、しっかりと挑戦を克服していこうではないか。

  天祐は台湾にあり。台湾よ頑張れ、中華民国よ頑張れ。皆さん、ありがとう」

 

  以上である。蔡総統は、香港式の「一国二制度」による統一を拒絶し、習近平政権との対決姿勢を鮮明にしたのだった

  現在、台湾の各種世論調査で、蔡総統は国民党の韓国瑜候補に10ポイント程度の差をつけており、その差は開いていく傾向にある。

  今後、1月の選挙が近づくにつれて、香港と台湾の「民主連携」が起こってくることが予想される。そうなると中国も、この両地域に高圧的に出るだろう。2020年も東アジアは「乱の年」になりそうだ
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近藤 大介
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191015-00067796-gendaibiz-cn&p=1