日本の大企業がアジア諸国で「2周遅れ」している厳しい現実

10/5(土) 7:01配信

現代ビジネス

「日本の大企業もできるはずだ」

 

消費増税実施の前日に「日本経済新聞」(9月30日付朝刊)は一面トップに

 

「甘利自民党税調会長に聞く―M&A減税措置検討、内部留保の活用促す」

 

との見出しを掲げた甘利明自民党税制調査会長のインタビューを掲載した。

日本人だけが知らない「日本の強さ」の正体…アジアで見た意外な現実


 一見すると唐突感を覚えるが、精読すると甘利氏の主張がまさに時宜にかなった「日本企業の構造改革」を強く促す提言であることが理解できる。

 同紙記事の重要なポイントを引用する。

 

《……自社にない技術やビジネスモデルを有する企業や大学発スタートアップに投資するよう、企業を税制で後押しする考えを示した。

 

念頭にあるのは内部留保を使った新規事業への投資だ。

 

……欧米では社外のベンチャー企業や大学などが持つ技術やアイディアを活用する「オープン・イノベーション」が盛んだ。

 

甘利氏はこうした手法を税制で支援する考えを示し「世界中の大企業は思い切ったことをやっている。日本の大企業もできるはずだ」と語った。……》

 至言である。筆者はここで、思い切ったことをやっている「欧米」ではなく、社会インフラが未整備で社会課題も大きい「東南アジア(ASEAN)」の想像を超えたレベルに達しているデジタル産業の実態を紹介することで、甘利氏の指摘が正鵠を射ていると改めて表することにする。

 一言でいえば、現在の日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)は東南アジアやインドなどのDXの先行者(企業)に周回遅れどころか2周以上も離されてしまっているのだ。換言すれば、日本は直ちにASEAN企業のDXパートナー(先行者)と組んでDXビジネスを加速させ、産業構造転換を加速すべきだということである。

インドネシア・GOJEKの躍進

 デジタル産業の世界には「デジタルリープフロッギング(digital leapfrogging)」という用語がある。直訳すれば「デジタル跳躍」であるが(frog=カエルから連想できる)、その意味することは一度革命的なプラットフォーマーとなった起業家が社会や企業が抱える課題を見つけ、デジタル技術を駆使して解決に導くことを(DXビジネスの)商機としてさらに急成長するということである。

 歴史の皮肉と言うか、大きな社会課題を抱える国々ではそれを逆手に取ってビジネスチャンスにして大成功を収めた好例が、ライドシェアからスタート・急拡大したインドネシアのGOJEKである。「移動と決裁」という新興国の典型的な課題をビジネス化したのだ。

 米ハーバード大学でMBA(経営学修士号)を取得した創業者のナディム・マカリム氏は2010年、母国に戻り主要都市の交通渋滞解消を目指してバイク配車サービスを始めた。弱冠26歳だった。

 GOJEKは今や100万人のドライバーを擁し、評価額78億ドル(約8700億円)の新興企業グループに成長した。注目すべきは、急速に普及したスマートフォンを利用してライドシェアから移動を軸とした生活サービス全般に進出・急成長を遂げたことである。

 本体は配車から食品・日用品配送、宅配便、引っ越し、チケット購入、医薬品配送、そして傘下のGO-PAYがモバイルウォレット、電気・ガス・水道代など支払い、ポイントサービス・集金(人間ATM)、GO- LIFEがマッサージ師・家政婦・美容師・カーメンテナンス派遣などを行っている。やはり配車サービスから出発したシンガポールのGrab(マレーシア人が創業者)もまた今ではドライバー100万人を抱え、評価額110億ドルのコングロマリットである。

 GOJEKの凄いところは、低所得層のドライバーの銀行口座開設や零細商店の低利融資(GO- PAYデータを銀行に提供)を支援していることだ。高所得層から低所得層への再分配機能を目指しているのである。すなわち、サイバー空間で両階層を結びつけているのだ。

存在感の無さへの危機感

 実は、経済産業省(安藤久佳事務次官)は現地で進むデジタルイノベーションに日本の資金、技術、ノウハウ、事業ネットワークが投資で参画するよう我が国の経済界に強く働きかけている。というのも、中国のアリババやテンセント(騰訊)の遥かに後塵を拝する日本企業、特に製造業のDXにおいて存在感の無さに危機感を抱いているからだ。

 だからこそ、甘利氏は463兆円にも及ぶ内部留保(2018年度)を抱える我が国の大手企業を念頭に「内部留保がたまっていく企業はイノベーションが起きていない」と指摘しているのだ。同氏は10月2日も新聞各社のインタビューを受け、改めて技術革新を税制で支援すると語り、ベンチャー投資とM&Aを促している。


 日本は今、「第2の黒船」としてデジタル変革を起爆剤にした抜本的産業構造改革が求められている。実行しなければ、日本は確実に「デジタル産業後進国」に成り下がる。

 

 

 

歳川 隆雄

 

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191005-00067628-gendaibiz-bus_all