大前研一ニュースの視点~

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ゴーン氏の悪事は過去のこと。重要なのはルノー側との「交渉」の進め方
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※KON754(18/11/30)で解説した記事を一部抜粋し編集しています。

 

東京地検特捜部は12月21日、
日産自動車のカルロス・ゴーン前会長を
会社法違反(特別背任)容疑で再逮捕しました。

 

国内の各メディアによると、ゴーン前会長は2008年10月ごろ、
自身の資産管理会社による投資で生じた
約18億5000万円の損失を負担する義務を
日産側に負わせた疑いで、同容疑者の逮捕は3度目。
関係者によると、「日産に損害を与えていない」
などと容疑を否認しているといいます。

 

ゴーン前会長と同社のグレッグ・ケリー前代表取締役は11月19日、
金融商品取引法違反容疑で特捜部に逮捕され、
12月10日に同法違反の罪で起訴。

また、特捜部は12月10日、同法違反の容疑で
ゴーン前会長とケリー元代表取締役を再逮捕し、
勾留期限だった12月20日に勾留延長を請求したが、
東京地裁は同日、12月21日以降の勾留延長を
認めない決定を行っていました。

 

今回の逮捕劇で、「ゴーン氏が悪い」というのは
すでに「過去形」で語られることであり、

今後の重要事項ではありません


この問題はもっと色々な角度から見ることが必要です。

 

特に重要なのは、日産がルノーに対して
どのような「交渉」ができるか、ということです


現状、ルノーは日産の大株主であり、
株式の43.7%(2018年9月30日現在。四半期報告書)
を保有していて圧倒的な主導権を持っています


取締役会に役員も送り込んでいますし、
帳簿閲覧権も持っています。

 

私が日産側に立って交渉するなら、
まずルノーに大株主としての監督責任を強く追及します。

さらには、ゴーン氏はルノーが送り込んだ役員の一人ですから、
その点も強調して交渉に臨むでしょう

 

そして同時に、昨年までの予定だった
ゴーン氏のルノーにおける任期が
2022年まで延びた理由も追及します。

 

マクロン仏大統領と会ってから、
急にゴーン氏の任期が2022年まで延びて、明らかに
ゴーン氏の態度がフランス政府寄りに傾き始めました


昨年の5月に私が週刊ポストに寄稿した記事でも書きましたが、
ゴーン氏とマクロン大統領の間に何かしらの
「密約」があったのではないかと私は見ています

ズバリ言えば、その内容はルノーによる
日産の完全統合だと思います。

マクロン大統領は、かつて経済・産業・デジタル大臣だった頃から
フランスに世界一の自動車メーカーを誕生させたい
と考えている人物です。ドイツ、日本、米国、
そして将来的には中国にも世界一の覇権を争う
自動車メーカーが存在します。これまでのフランスでは
その争いに参加することは難しい状況でしたが、
ルノー・日産・三菱連合となり、
それが視野に入ってきた今、マクロン大統領としては
長年の夢を実現させるべく動いていると思います

これまでにもゴーン氏はフランス政府からルノーによる
日産の完全統合の打診は受けていたはずですが、
ずっとそれを拒否してきました
。ところが、
昨年になって自分の人事と引き換えに
それを受け入れた可能性があります。

日産側はこの点を理解した上で交渉に臨まないと
フランス政府・ルノー側の思うままに
完全統合されてしまうかもしれません。

 

この問題について世耕経済産業相も何やら発言していますが、
日産は政治家や役人の動きには特に注意すべきでしょう。
1980年代に東芝の子会社でもなく、独立した上場会社であった
東芝機械が不祥事を起こしたことがあります。
本来、東芝が責任を問われる必要はありませんでしたが、
当時の通産省は米国に媚を売って東芝の会長と
社長の首を差し出すような真似をしました。
政治家・役人というのは、こういうことをやりかねないのです。

こうした背景も理解しつつ、
日産は完全統合される道を避けるために、
どのような交渉のシナリオを描くのか?
非常に重要であり、かつ極めて難しい交渉が予想されます。

では、日産はどのような交渉を持ちかけるべきか?

 

今現在、ゴーン氏は日産の会長職と代表取締役を解任され、
ここまでは日産の取締役会の決議で可能でしたが、
取締役も解任するとなれば株主総会の決議が必要で、
臨時株主総会を招集しなければいけません。

株主総会の決議となったときに厄介なのは、
ルノーの持株比率です
。ルノーは日産株の
43.7%を保有しています。過半数を超えるためには、
通常は株主総会を開いて委任状争奪戦
(プロキシーファイト)になりますが、今回の場合、
ルノーは43.7%でも過半数になれる可能性があります。

というのは、日産ほどの大企業になると
全発行株式を集めるのは難しいので、
かき集めたとしても80%程度になります。
そうなると、ルノーの持ち分43.7%で
過半数ということになってしまいます。
ルノーの賛成を得られなければ、
日産はゴーン氏もケリー氏も取締役を解任することはできません

日産がこのシナリオを防ぐためには、
ルノーの株式を買い増し、ルノーの日産への
議決権を停止させることが必要でしょう

また、ルノー側がゴーン氏とケリー氏の解任動議に
賛成したとしても、安心はできません。
代わりに新たにルノーから2人の取締役が送り込まれたら、
元の木阿弥だからです
日産側としては、
ルノーからの取締役は1人までにしてもらい、
代わりに会長職を渡すなどの交渉が必要でしょう

 

そうなると、ルノー側から派遣する取締役の人数が減って、
日産によるルノー株の買い増しを
取締役会で決議されるかも知れません。
ルノーとしてはそのような事態を避けたいはずですから、
事前にそれだけは認めない契約を締結するように
求めてくる可能性があります。

私がルノー側の人間ならば、
日産の取締役会でマイノリティになるような事態は
何が何でも避けるように動きます

逆に日産側の人間ならば、日産に対する完全子会社化をしない
という契約を取り付けるように動くでしょう

それができないなら、今回の責任を大株主であるルノーに問い、国際的な場で「争う」姿勢を見せます
ルノーが送り込んだゴーン氏がどれだけ悪さをして、日産の株主に被害を及ぼしたのかを交渉材料にするでしょう。

 

責任問題という意味では、ルノーから日産側の監督責任を
問われる可能性も十分にあります。そうなると、
西川社長も無傷ではいられないと思います。
そこまで見据えて、シナリオを描いて交渉していく必要があります。
繰り返しになりますが、これは非常に難易度が高い交渉になると思います。

 

※この記事は2018年のクリックアンケートで反響が大きかった号をピックアップし編集しています