「日々の雑談」は気持ちのリセットに有効だ

11/12(月) 7:20配信

東洋経済オンライン

「日々の雑談」は気持ちのリセットに有効だ

SNSでいくら情報を共有しても、実際にその人と会って触れ合うこととはまったく次元が違う(写真:monzenmachi/iStock)

 
 

 こんにちは。生きやすい人間関係を創る「メンタルアップマネージャⓇ」の大野萌子です。

 相談業務にかかわる中で、気持ちがふさぎがちな人、心が不安定で憂鬱になりやすい人の特徴に「気持ちの切り替え」が苦手という傾向がみられます。

 たとえば、

・休みの日でも仕事のことが頭から離れなくてリラックスできない
・嫌なこと、心配なことがつねに頭の片隅に渦巻いていて気になってしまう
 などを訴えられることが多くあります。

 

自分の思いを話すことの効果
 これらを防ぐためには、日々のルーティンの中に、気持ちの切り替えスイッチを持つことが大切です。そのために必要な、「気持ちの整理」と「リセット」の2つの方法をお伝えしたいと思います。
 まずは、気持ちの整理ですが、つらいことや嫌なことがあったときに、友人や家族にその気持ちを話すと少し気持ちが楽になるといった経験をお持ちの方が多くいらっしゃると思います。
 誰かに思いを話しただけで、現状が変わるということがないにもかかわらず「気持ちが落ち着く」「肩の力が抜ける」ということが起こります。これを「カタルシス効果(心の浄化作用)」といいます。

 

 なぜ話しただけで浄化作用が得られるのかというと、目に見えない、形がない自分の気持ちを誰かに伝えるときに、何が起こったかのエピソードを詳しく時系列になぞったり、気持ちにぴったり合うような感情表現の言葉を探して当てはめていくという作業を自ら行います。これ自体が自分の気持ちを整理することにつながるのです。
 出来事を追体験し、自分の気持ちを言葉によって具体化していくプロセスの中で、自分の思いが明確になり、状況を客観視できるようになるわけです。そして、話をしていて相手に伝わらないと感じれば、何とかわかってもらおうと違う表現を探し、自分が言い足りない場合は、いろんな言葉に置き換えて自分の思いを模索します。するとより一層、気持ちを具体的に正確にとらえる助けになります。

 

 要するに、人に話をするということは、自分自身を振り返ることにつながり、気持ちの整理に大いに役立つのです。ですから、今日あったことを話す場や相手がいることが必要なのです。

 まずは、職場で話してみましょう。起きたトラブルやちょっとした気持ちの浮き沈みなど、その場で話せる雰囲気があればよいですね。しかし、忙しかったり、そもそも周りの人と気軽に話すような状況にない場合もあるかと思いますが、気軽な世間話から積極的に取り入れてほしいと思います。

 仕事中はちょっと難しいという方は、仕事帰りに食事や飲みに行くのもお勧めです。個人の時間を大切にする傾向に拍車がかかり、人を誘うこと自体をためらうことも多いですが、最近では、コミュニケーションの一環として「上司から食事に誘ってほしい」「同僚と飲みに行きたいがきっかけがつかめない」などの声も現場では多く聞かれます。もちろん、普段の関係性もあるので、やみくもに、誰とでもよいというわけにはいかないと思いますが……。

 

 そして、家に帰ってから、家族にその日あったことを話すことが、実は最も有効な方法です。何も悩み相談をしなければと身構える必要はありません。「こんなことがあった」とか「それでどう思った」とか、その日を振り返る内容で十分で、それを日々繰り返すことがとても大切なのです。しかし、家族がいてもすれ違いが多かったり、1人世帯も年々増加し、電話で話すということも減っているので、この単純な日々の棚卸しが困難になっています

 

SNSがリアルを超えることは決してない

 これをある程度補完するのに役立つのは、ツイッターやフェイスブックなどSNSの存在ですが、文字は限定的で、話すことに比べて情報量が圧倒的に少ないので、効果は低くなります。あくまでも副次的なものであり、SNSがリアルを超えることは決してありません。いくら情報を共有しても、実際にその人と会って触れ合うこととはまったく次元の違うことです。


 積極的に話す場、話す相手を探そうとしなければ、なかなか難しい現状もあると思いますが、「日々、体験した出来事を話す行為」に重要性を感じていただき、毎日でなくてもよいので、自分の思いや現状を話せる場を持っていただければと思います。それが、自分自身の気持ちの整理と安定につながります。

 

 

次にリセットですが、何も考えないで済むような(思い悩む余地のない)何かに夢中になれる時間を持つことが大切です。手軽なのは、携帯ゲームのようなものがそれに当たると思います。たとえば、ゲームをクリアしようとして集中しているときに、ほかのことを考える余地はないと思います。

 この「心配事も悩みも考えない時間」がリセットの役割をします。DVDやTVドラマを観て、その世界に入り込むというのもよいですし、漫画や読書、スポーツ観戦、音楽も一時的に夢中になって、集中することができれば効果的です。その時間が終われば、嫌なことを思い出したり、不安がよぎったりすることもあると思いますが、それでも、一時的に現実の思考や感情をシャットアウトする時間が、気持ちの切り替えに役立ちます自分が無心になれる、集中できることを取り入れてください

 また、誰ともかかわらない1人の時間もリセットの効果があり、究極のリラクセーション効果を生みます人目を気にせず、自分だけの世界に身を置くことで、セルフケア効果や心の整理整頓効果が期待できます誰ともつながらない時間は、心を豊かに育てる大切な時間でもあるのです。

「誰かと共に過ごし、自分の気持ちを話すこと」と、

 

「誰ともかかわらずに1人で過ごす時間」

 

両方が

 

心の健康を保つために必要です。

 

車の両輪のように、いずれに偏ることなく、それぞれの時間を確保できるように日々の生活を見直してみてください。豊かで穏やかな気持ちの割合を増やす、一助になりますように。

 

大野 萌子 :日本メンタルアップ支援機構 代表理事