「これはね。

先生のお庭の風景だよ。

これは何度も描いたなあ………

描いても描いてもなんか違うんだよね。

多分、一生満足できるものなんて

描けないんだと思うよ。」

と、俺の前を歩くひよこ頭が言う。

俺はその後ろ姿に

目頭が熱くなる……










松本に絵を預けてしばらくした頃

俺のもとに一通の手紙が届いた。

中には

〔平谷智絵画展〕のチケットと

[26才という若さでこの世を去った

若き芸術家平谷智。

平谷郁哉の養子となり義父の教えと

独自の感性で造り出した世界は

人々の心に温もりと平安を

与えるものとなっています。

どうぞご覧ください。]

と、書いてあるパンフレットが入っていた。



松本が密かに集めていた智の絵。

多くの人に、もっと智の事を知ってもらいたいと

松本が企画した智の絵画展だった。





『智、

松本がお前の絵を、

みんなに知ってもらいたいって

智の絵画展をするんだぞ。

一緒に行くか?』

と、俺は智の写真に話しかけた。

相変わらず

写真の智は柔らかい笑みを浮かべて

26才のままだ。

俺はその写真を胸ポケットに仕舞うと

靴を履いて

玄関のドアに鍵をかけた。




絵画展の入り口には何人かの人が並んでいて

俺は若い二人組の女の子の後ろに着いた。


入り口に智の写真とプロフィールが記載されている。

それを読んでいた女の子たちが

『この人、超かっこよくね。』

『でも、生きてたら

家のじいちゃんぐらいって事じゃん。』

『じゃあ、じいちゃんじゃん。』

『でも26才で死んだんだ。

病死だって?』

『なんの病気だったんだろうね。

………書いてないね。』

『以外と自殺じゃね。

芸術家って

そういうとこあるじゃん。』

『あ、わかる。

恋愛の縺れとか』

『なんか弱そうじゃん。

自分の女取られて自殺…てね。

世間体で病死…………みたいな』

『ねぇ』

などと、無責任な話していた。







「クスクス

何、怒ってるのさ。」

背後から聞き覚えのある声がする。

「俺は気にしてないんだから

翔くんが怒るなよ。」

と、俺の前を歩いていく彼のふわふわの髪がひよこのように上下する。



会場に入ると求めてもいないのに

「この絵はね…………」

と、ひとつひとつ説明をしてくる彼。

俺はただ黙って彼をみてた。

「ねえ、聞いてる?

俺ばっかり見てないで

こっち、見てよ。」

と、鼻を曲げて頬を膨らませる。

全然変わらない姿に俺の目頭は熱くなる。

今にも溢れそうな涙を抑えながら

俺は彼に着いていく。




「ねえ、翔くん。

今でも俺が…………好き?」

奥の広間の真ん中に立つと彼が聞いてきた。


『………あ、ああ……

当……たり前……じゃないか……

…さ…とし……』



スポットライトに照らされた智

そして、その横には俺の肖像画。

智は安心したように微笑むと

「…………あり……がとう…………」

と、言って消えていった。



今では色褪せることなく

こんなにも鮮明に思い出せるぐらい

俺は智を愛してる。