ハイスクールの一日
一七、スタディ・ホール
スタディ・ホールとは、自習の時間だ。宿題などはほとんどこの時間に済ませるようにしている。ただ、この時間は、見張りの先生がいることはいるが、雑談していても他の人に迷惑がかからなければ注意されない。また、ベースボールのシーズン中、選手は体育館の二階にあるバッティング・ケージでバッティング練習することを許されていた。同じスタディ・ホールにいたクリス・リヴァードや顔が雄鶏に似ているジム・ルースター・パワーとよくケージに行ったものだ。
スタディ・ホールではよく日本について彼らと雑談した。彼らが聞きたがったのは日本の文化や歴史についてではなく、日本の高校生についてだった。彼らは日本の女の子や余暇の過ごし方、パーティーなどについて知りたがった。
男女交際については、アメリカの方が進んでいると思った。そう思ったのは、休憩時間になると学校のあちこちでいちゃついているカップルをよく見かけるためだ。当時、日本の田舎の高校では、彼女と一緒に帰るだけでもみんなに冷やかされたものだ。カンカキーはアメリカの田舎だし、マクナマラ高校はその田舎にある高校だ。それでも、彼氏は彼女の肩を抱き、彼女は彼氏のズボンの後ろのポケットに手を突っ込んで校内を歩いている。私はそういうカップルを見ても羨ましいとは思わなかったし、例え彼女ができても、恥ずかしくてそういったことができるとは思えなかった。当時、日本の友達の中でも、女の子とキスした経験のある奴は少なかったと思う。
一つ下の十年生に『小さな恋のメロディ』に出ていたトレーシー・ハイドそっくりの子がいた。最初に見たときから彼女に注目していたのだが、幼い顔の彼女が妊娠していると聞かされたときはすごく驚いた。春になると彼女のお腹は、非常に目立つようになっていた。当時の日本の高校だと妊娠がばれると、退学になる可能性が高いし、大きなお腹で高校に通う女の子を見たことはなかった。このことを彼らに話すと、ドーンが「もし学校が彼女を退学処分にしたら、良い職に就けないじゃない」と言った。確かにアメリカでは義務教育の高校を卒業していないと、ろくな職にありつけない。「彼女は法律を犯したわけではないのだから退学にされる方がおかしい」と横にいたチャックが付け加えた。チャックもドーンもメルも高校生がママになるのは奨励できることではないと思っていたし、今の自分たちに結婚して子供を育てる能力も自信もないことは承知していた。ただ、彼らは妊娠した女の子を退学にして、彼女の人生をより難しいものにする必要はないと思っていたのだ。
『小さな恋のメロディ』。ビージーズの主題歌もいいが、二人が最後にトロッコをこいで逃げるシーンにかかるクロスビー、スティルズ、ナッシュ&ヤングの『ティーチ・ユア・チルドレン』がいいよね。若い人は知らない映画だと思うけど・・・。妊娠していた女の子は本当にトレーシー・ハイドそっくりでした。アメリカではこの映画を知っていた友人はいなかったけど・・・。イギリス映画で、日本でしか流行らなかったのかなあ?
注意: 『十六歳のアメリカ』は、私の体験を基に書いていますが、フィクションです。