赤き竜の慟哭 (1)
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異世界にて、パーティー結成?
メンツ
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序 (1)
第一章 赤き竜の慟哭
たどり着いた村で早速買った地図を広げたセツナは、「あちゃあ」と天を仰いだ。彼の本拠地とはまったく別方向に突き進んできてしまったという。
「ちくしょー、家まで急いだって一週間はかかるじゃんかよー」
さみしいよぅ、と呟いたのを聞き逃さなかったのは芹。
「セツナさんて、なんかかわいいね」
と、希生に耳打ちする。
「おまえの感性ってよくわかんねえ」
相手は年上の男だぞ、と希生が呆れてみせると、ええ、と怪訝な顔をする。
「仕方ない。今日はここで宿をとるか」
セツナが地図を畳んで立ち上がる。
「と、その前に、これ換金してくらあ。あーあ、まさかおまえらが一文無しとはなー」
これ、と言って肩に担ぎなおしたのは、馬鹿でかい皮袋。その中には、先刻砂漠で倒したトカゲモンスターの、切り落とした頭と手足が放り込まれている。
「そんなのが本当に金になるんですか?」
とても信じられない、と希生。
「当たり前だろ。急いでたから牙と爪と革が少々ってところか。もしかすると目玉もいけるかも」
本当な肉も採りたかったんだよな、と恐ろしいことを笑って言う。芹や希生にとっては目を疑うような光景だが、セツナにとっては日常的なことなのだ。
「でも、おかげでご飯も食べさせてもらえそうだよ」
と、芹が希生に笑いかける。
「一番の心配はそれかよ」
とは言うものの、希生ももう腹ペコである。
「でもどうしよう、ゲテモノ料理とか出されたら……」
芹はまだ言っている。
食べ盛りの男の子には、重大な関心ごとなのであった。
「いやああなた、大した腕ですな!」
換金所の親父がトカゲモンスターの頭を見て歓声を上げた。
聞けばこのモンスター、砂漠に出た村の人々を次々と襲う厄介者だったのだという。
最近では砂漠に出るときには護衛をつけているので大きな被害が出ることはなかったのだが、逃げ足が速くて仕留めることができない。
被害がゼロになったわけではないし、何より護衛を雇うのには金がかかる。
村人たちはすっかり困り果てていたのだった。
「へえそっかあ。じゃあ運が良かったんだなあ」
とセツナ。
セツナが特別素早かったわけではない。芹たちに気をとられていたモンスターに暴走した馬で激突し、倒れたところにとどめを刺しただけなのである。
しかし村人たちはセツナの言葉を別の意味で受け取ったようである。
いつの間にやら村人たちが三人を取り囲み、なにやら期待の眼差しで見つめている。
「これはアレかな……」
希生の呟きに、芹が頷く。
「中ボス戦だね……!」
村長の家に招待されて依頼されたのは、
「ドラゴン退治ィ?」
セツナは眉をしかめて腕を組んだ。
「俺一人じゃ無理だな。飯食わせてもらって悪いんだけど」
「何をおっしゃいますか。お仲間様ならいらっしゃるじゃないですか」
村長がにこやかに芹と希生を見やる。
「俺たちって戦力に見えるんだ……?」
「どうしよう、ドラゴンていきなりラスボス戦だよ」
ヒソヒソやっている二人に、セツナが加わる。
「おまえらってさあ、どうなの」
「どうって?」
「戦えんのかって」
「まさかあ」
「でも夢だし、いけるかも?」
「楽観的だな、氷魚……」
と、希生。
「だって夢だし……」
「なんなんだよ、おまえらさっきから、夢夢って」
繰り返した芹に、セツナは呆れた顔をする。
「それに林くん、憧れない? ドラゴン退治」
「……まあ、夢だし?」
二人はにんまりと笑いあった。
村人たちが口々に語ったそれは、百年前に遡る。
村の北にある森に、一組の夫婦が居を構えた。
夫は人間。妻は、レッドドラゴン。
つづく。