裁判員制度への疑問(1)コールセンターが使えない | 回廊を行く――重複障害者の生活と意見

裁判員制度への疑問(1)コールセンターが使えない

回廊を行く――重複障害者の生活と意見-電話禁止 使えない電話


このカットは本来「電話することが禁じられている」という表示です。今回のテーマは裁判員の候補者に提供されている問合せのためのコールセンターですが、それが電話禁止というのではまったく矛盾しています。もちろんそういうことはなく、電話は殺到しているのですが、ここで電話のできない者はどうすればいいのでしょうか? つまり「電話禁止」ではなく、「電話利用不可能」ということです。


電話を利用できない、あるいは少なくとも電話の利用に困難があるのは聴覚障害者のほとんどです。聴覚障害者の数は厚生労働省の統計 によれば、20歳以上で34万1000人となっています。一方で新聞報道によりますと裁判員候補者一人あたりの有権者数は352人だそうですから、今回聴覚障害者で裁判員候補者となったのは969人と推算されます。つまり1000人弱ということです。これは29万5000人といわれる候補者全体に比べる少数とは言えるでしょうが、無視していいものではないでしょう。


ところで障害を有する人でも裁判員となれるのかと考える人もいるでしょうが、これについては最高裁サイトの裁判員に関するウェブページ が次のように答えています。

障害があるのですが裁判員になれるのですか。

  障害のある方であっても,裁判員としての職務遂行に著しい支障がなければ,裁判員になることができます。

 裁判員としての職務遂行に著しい支障があるかどうかは,事案の内容や障害の程度に応じて個別に判断されることになります。

 例えば,聴覚に障害がある方であれば,証拠として録音テープが提出されており,録音された音がどのように聞こえるかを直接聴いてみなければ十分に心証を 形成することができないような事件,また,視覚に障害のある方であれば,写真や図面(現場の状況,傷口の形状等)を巡る判断が重要な争点になっているよう な事件では,障害の程度によっては裁判員になることができない場合に当たることがあり得ます。

これは裁判員法の第14条でも「心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障がある者」が欠格とされており、障害を有するというのみでは除外されることはありません。裁判員候補者というのは有権者名簿から、他の何の情報も関係なくクジで選ばれるのですから、障害が関係しないのは当然のことです。その中に千人弱の聴覚障害者がいるのですが、その人たちがより詳しい情報を得ようとコールセンターにアクセスしようとしても、候補者となった通知には電話番号のみしか記していない、というのが今回取り上げる問題です。

裁判員候補者とされた人々には通知の書類が送られるのですが、その内容はWEBでも見られます。下の図が「裁判所からお送りする封筒と名簿記載通知及びその同封物について」 の中の「裁判員候補者名簿に記載された方々へ」 の最後のページですが、まず「くわしくは、こちらまでおたずねください」とあり、ここから別枠で「裁判員候補者専用コールセンター」の電話番号が記載されています(候補者にのみ知らされるのでWEBではブランクです)。さらに電話料や受付可能時日の記載があり、回答票の書き方についての質問はどうぞと、コールセンターにむけて↑印が付いていて、赤線で囲まれた枠はここまでです。次に青線の枠があって「法テラスコールセンター」の電話番号やPHS、IP電話の番号、ホームページのURLがあって枠はここまで。そして以上の二つの枠が、頂点に丸が付いた別の枠の中に一緒に入っています。

その下に別の頂点に丸の付いた枠があり、中に以下のようにあります。
【裁判所までお知らせください!】裁判手続きに参加していただくにあたって、身体の不自由などの理由により、お手伝いを必要とされる方は、「裁判員候補者名簿へのお知らせ」に記載されている地方裁判所まで、お知らせください。

回廊を行く――重複障害者の生活と意見-裁判員パンフp3 コールセンターへの案内

少しくどかったようですが、これは一見したところでは電話を使えない者は、「コールセンター」に何かを問い合わせようとしてもどうにもならないということを明らかにするためです。聴覚障害者のための配慮はないのかと、最高裁は直接には答えてくれないので、あれこれと手を尽くして調べたのですが、どうやら電話を使えない者は手紙か葉書で問い合わせることを想定しているようでした。その論拠になるのはコールセンターとは別の、二番目の枠にある「お手伝いを必要とされる方は、・・・地方裁判所まで、お知らせください。」ということらしいです。

これは後付の理由のように感じられます。問合せが「お手伝い」に含まれると解釈しろというのは、いささか強引ではないでしょうか。郵送では時間もかかりそうです。それに問合せだと気軽にできても、お手伝いというと頼みごとになり、なかなかやりにくいというのが普通ではないでしょうか? 第一、「裁判手続に参加していただくにあたって、」という前置きは、すでに裁判員に選任された者への呼びかけのようであり、候補者に対するそれとは違うように感じられます。それに何よりも、健聴者は手軽に電話できるようになっているのに、聴覚障害者は郵送でというのはフェアでないし配慮しているとも言いにくい。ファックスやメールを利用できるようにしようと思えば可能なのに、なぜしぶっているのでしょうか。なお、前記の法テラスのホームページを開ければ、メールアドレスが記載されていることは記して起きます。こういう手段もあるにはあるとフェアに指摘しておきたいからです。しかしそのことを明記しないでおきながら、問合せは「お手伝い」に含まれるのだから地裁に郵送すると解せよとか、候補者の年齢等も考えずにホームページを開けてアドレスを探せとか、いささか聴覚障害者にのみ負担をかけすぎていると考えるのはひがみでしょうか?

私自身が聴覚障害者なのでそう思うのだと言われてもかまいませんが、今回の裁判員制度に関して、最高裁は聴覚障害者に対する配慮を、示すふりすら控えているという気がします。いくらなんでもはじめから聴覚障害者に対して敵意を持っているとは思えませんから、おそらくは聴覚障害者というものについての理解を通り一遍のもののままとし、それを深める努力を怠っているのでしょう。例えば前記のパンフレットですが、最初のページの右下にSPマークがついています。これは機器にかけると800字程度の情報を音声化するもので、ちょうどそのページの文字数に当たります。他のページや文書には付いていないのですから、きわめて不完全ですが、それでも視覚障害者に配慮したというポーズにはなる。この程度のことも聴覚障害者にはしていないのです。

以下追加の情報ですが、コールセンターには15日までの2週間で3万本強の電話が来たそうです。今回の候補者は29万5000人だそうですから、同じ人が何回もかけたというのもあるでしょうが、ほぼ一割が問合せをしたことになります。候補者に聴覚障害者が千人ほどいるはずという先ほどの推測に従えば、約100人の聴覚障害をもつ裁判員候補者が電話をかけようにもできずに途方にくれた可能性があります。こういうことを最高裁や、裁判員制度の実施にあたる官庁等は知らぬ顔をするのでしょうか?

☆最高裁 フェアを忘れて 何残る


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