裁判員裁判と田母神前空幕長の「罪」

懸賞論文に応募した文章が受賞して公開され、その内容が政府見解と異なるとして更迭された田母神前空幕長は、国家機密を漏洩するという罪を犯したと書いたブログがありました。この場合機密というのは航空自衛隊のトップの能力を暴露したという意味のようです。田母神氏の罪の内容については私は必ずしもこれに同意しませんが、それを国家機密の漏洩であるとすれば、どういう法律で裁くべきでしょうか?
法令名に「機密」というのはありませんから、「秘密」で検索すると「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」があります。内実はともかくまさかこれで訴えるわけにもいかないでしょうから、結局は国家公務員法の「秘密を守る義務」の第百条 「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。」でしょう。これに対する罰則は「一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」です。
半年後に始まる裁判員裁判ならどうなるかというのが今回のテーマですが、しかしあいにくというか、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」第二条によると、対象となるのは原則として次のものです。
一
死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
二
裁判所法第二十六条第二項第二号に掲げる事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。)
これでは国家公務員法違反は該当しないようです。国民を裁判に参加させるという趣旨から言えば、詐欺とか収賄とか、あるいは最近の食品や建築の偽装、さらには選挙違反などを裁くほうが国民の判断を生かすという点でふさわしいのですが、どういうわけかいきなり重罪の判断をやらせるようになっています。この辺が裁判員制度について疑問に思うことのひとつです。国民の社会常識を反映させたいならば、公害や薬害あるいは行政訴訟や労働訴訟の方が、血みどろの殺人事件などよりよほどふさわしいだろうというのが作家の高村薫氏の意見 ですが、まったくその通りと思います。
それでは「国家機密の漏洩」はどういう法律で裁くのか。上記の条項では裁判員裁判の対象は刑法犯ということになりますから、刑法を見るとふさわしいと思える条項があります。内乱罪と外患罪です。
これでは国家公務員法違反は該当しないようです。国民を裁判に参加させるという趣旨から言えば、詐欺とか収賄とか、あるいは最近の食品や建築の偽装、さらには選挙違反などを裁くほうが国民の判断を生かすという点でふさわしいのですが、どういうわけかいきなり重罪の判断をやらせるようになっています。この辺が裁判員制度について疑問に思うことのひとつです。国民の社会常識を反映させたいならば、公害や薬害あるいは行政訴訟や労働訴訟の方が、血みどろの殺人事件などよりよほどふさわしいだろうというのが作家の高村薫氏の意見 ですが、まったくその通りと思います。
それでは「国家機密の漏洩」はどういう法律で裁くのか。上記の条項では裁判員裁判の対象は刑法犯ということになりますから、刑法を見るとふさわしいと思える条項があります。内乱罪と外患罪です。
第七十七条 国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。
一 首謀者は、死刑又は無期禁錮に処する。〔二、三略〕
2 前項の罪の未遂は、罰する。ただし、同項第三号に規定する者については、この限りでない。
第八十二条 日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えた者は、死刑又は無期若しくは二年以上の懲役に処する。
これを見ると裁判員裁判の対象として第二条第一項の条件は満たしているようですが、田母神氏の行為はさすがに該当しないようです。指揮官の無能を暴露する ことにより外患を誘致するとも考えられますが、いくら何でもその犯意があったとは思えません。むしろ航空自衛隊の何十人もの部下に自らの歴史観を講義した あたりに、内乱罪の萌芽を認め未遂の罪に問うという方がありうるかなと思えます。
しかしこういう政治がらみの罪状の裁判に裁判員を参加させるものかなと思い、弁護士ではありませんが、仕事柄法律には詳しい人に聞いてみましたら、「そう いう裁判員に危険が及ぶ可能性のあるケースには参加させない」と即座に言われました。裁判員にかかわる法律には次の条項があるというのが理由です。
(対象事件からの除外)
第三条
地方裁判所は、前条第一項各号に掲げる事件について、被告人の言動、被告人がその構成員である団体の主張若しくは当該団体の他の構成員の言動又は現に裁
判員候補者若しくは裁判員に対する加害若しくはその告知が行われたことその他の事情により、裁判員候補者、裁判員若しくは裁判員であった者若しくはその親
族若しくはこれに準ずる者の生命、身体若しくは財産に危害が加えられるおそれ又はこれらの者の生活の平穏が著しく侵害されるおそれがあり、そのため裁判員
候補者又は裁判員が畏怖し、裁判員候補者の出頭を確保することが困難な状況にあり又は裁判員の職務の遂行ができずこれに代わる裁判員の選任も困難であると
認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、これを裁判官の合議体で取り扱う決定をしなければならない。
こういう条項があることは知っていましたが、もっぱら被告が組織暴力団の一員だった場合に備えたものだと思っていました。しかし内乱罪や外患罪の場合もこの条項で裁判員裁判でなくなるというのは、私のたずねた相手が即答したことからいっても、すでに決定されていることのようです。内乱罪や外患財の場合、必ず組織的背景があって、被告に不利な判定が出されたときに、残党が裁判の参加者を襲撃するといった構図があるのでしょう。
わからないでもありませんが、では他の刑法犯の場合、被告に暴力組織の一員であった経歴があれば、公判前整理手続きなどで単独犯と認定された場合はどうなるのでしょうか。長崎市長を射殺した犯人や民主党の石井議員を刺殺した犯人は、共に暴力団員であったといわれますが、判決は単独犯としているはずです。これらの事件と類似の色彩のある厚生元次官連続襲撃の容疑者は、これに対して暴力団歴は伝えられていないし、現在までの取調べでは単独犯とされる可能性が濃厚ですが、とすれば裁判員裁判で裁くことになるのか、言葉は穏当でないのですが見ものだと思います。つまり単独犯と決め付けると、それだけ裁判員に関与させる可能性が大きくなるからです。
裁判員に関する法に第三条のような規定があることは必要でしょうが、内乱罪や外患罪までこの第三条によって裁判員の関与を認めないとあらかじめ決定しておくということは、政治性のある事件からは裁判員を遠ざけておきたいという思想が背後にあるのではないでしょうか? 結局のところ国民の裁判への参加をうたう裁判員制度も、「よらしむべし知らしむべからず」という考え方の残滓からは逃れていないのではないかと、考えているうちに思うようになりました。高村氏のあげた労働訴訟や行政訴訟に裁判員制度が適用されないことも、その表れの一つではないかと思います。
☆裁判員 社会の罪は 裁かせず
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こういう条項があることは知っていましたが、もっぱら被告が組織暴力団の一員だった場合に備えたものだと思っていました。しかし内乱罪や外患罪の場合もこの条項で裁判員裁判でなくなるというのは、私のたずねた相手が即答したことからいっても、すでに決定されていることのようです。内乱罪や外患財の場合、必ず組織的背景があって、被告に不利な判定が出されたときに、残党が裁判の参加者を襲撃するといった構図があるのでしょう。
わからないでもありませんが、では他の刑法犯の場合、被告に暴力組織の一員であった経歴があれば、公判前整理手続きなどで単独犯と認定された場合はどうなるのでしょうか。長崎市長を射殺した犯人や民主党の石井議員を刺殺した犯人は、共に暴力団員であったといわれますが、判決は単独犯としているはずです。これらの事件と類似の色彩のある厚生元次官連続襲撃の容疑者は、これに対して暴力団歴は伝えられていないし、現在までの取調べでは単独犯とされる可能性が濃厚ですが、とすれば裁判員裁判で裁くことになるのか、言葉は穏当でないのですが見ものだと思います。つまり単独犯と決め付けると、それだけ裁判員に関与させる可能性が大きくなるからです。
裁判員に関する法に第三条のような規定があることは必要でしょうが、内乱罪や外患罪までこの第三条によって裁判員の関与を認めないとあらかじめ決定しておくということは、政治性のある事件からは裁判員を遠ざけておきたいという思想が背後にあるのではないでしょうか? 結局のところ国民の裁判への参加をうたう裁判員制度も、「よらしむべし知らしむべからず」という考え方の残滓からは逃れていないのではないかと、考えているうちに思うようになりました。高村氏のあげた労働訴訟や行政訴訟に裁判員制度が適用されないことも、その表れの一つではないかと思います。
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