コソボの地で偶然出会うことになった病の少年ネジールくん。彼には時間がない。近藤麻理はさっそく日本のAMDA本部に電話で連絡をした。
「3歳になるネジールくんという男の子なんですが、至急治療を受けさせてあげたいんですけども……」
また、近藤麻理は各国の援助団体に事情を説明して協力を求めた。しかし、いい返答は得られなかった。
「この国には病気の子供がたくさんいるんです。ひとりの子供を救うより、多くの子供を救うことを考えたらどうですか?」そういってアメリカの援助団体の男性はドアを閉めた。
近藤麻理はうつむいてため息をつくしかなかった。
一方、近藤麻理からの報告を受けた日本のAMDA本部は、日本アルバニア協会の理事である金沢在住の片山直樹に連絡をとった。
彼はかつてアルバニアで上田医師とともに活動したことがあったが、現在は普通のサラリーマンでありどうすることもできない。
が、同級生との食事会に医者の友人がくることを思い出した。
片山直樹の友人の山口医師はいう。
「俺は専門じゃないけど、金沢大学付属病院に知り合いの医者がいるから相談してみるよ」
「本当か?頼むよ!」片山直樹は頭を下げた。
翌日、その話はすぐに金沢大学付属病院の病院長に伝えられ、小児科、眼科の専門医が集められた。しかし、支払いの目途がたっていないなど問題は山積みであった。
が━━。
「本当ですか?ありがとうございます!」笑顔で電話越しにお礼をする片山直樹がそこにはいた。
なんと片山直樹が連絡を受けたわずか3日後に受け入れがきまったのだ。
そしてその知らせはただちにコソボの近藤麻理に伝えられるはずだったのだが、唯一の通信手段である衛星電話が壊れるというアクシデントに見舞われることになってしまった。
頭をかかえる近藤麻理。ネジールくんには時間がない。しかし電話があるのは車で13時間かかるアルバニア。しかもそこに行くには戒厳令がしかれた中、山越えを決行しなくてはならない……。