漫画≪キャプテン翼~LORD TO 2002~≫に次のようなシーンがある。
観客席でサッカーの試合を観ながら3人の少年たちが会話をするシーンなのだが、3人の少年のうちふたりの少年の父親が試合に出場しているサッカー選手で、残りのひとりの少年の父親がパン屋らしいのである。そのパン屋の息子の少年がこうつぶやくのだ。
「お父さんがサッカー選手なんてカッコイイ。羨ましいなぁ……」
そんな彼にサッカー選手の父親を持つふたりの少年がこういうのである。
「そんなことはない。おまえの父さんのつくるパンだって最高においしいじゃないか!」
そう慰められてへこみぎみだったパン屋の息子の少年の顔に笑顔が戻るのだが、私はこのシーンに大きな疑問を抱かざるをえない。
パン屋の息子がサッカー選手の父親を持つ友達を羨ましがる━━それではまるでパン屋がサッカー選手より下に位置する職業のようなではないか。
娯楽職業であるサッカー選手などいてもいなくてもどうだっていいものだ、あってもなくてもどうだっていいものだ。たとえサッカー選手がこの世からすべて消えてなくなっても、死ぬほど困るような事態に陥る人など完全に皆無である。
しかし、パン屋はちがう。パンという食糧がなくなったら人類の大半が生死にかかわるほどの危機に陥る。そのためパンをつくる仕事の人間は必要不可欠であり、論理的にサッカー選手などより遥かに重要で偉大ということになるのだ。それだというのにパン屋のことを“華やかでカッコいいサッカー選手と比べたらダサくてどん臭くてカッコ悪い職業”であるかのように書いた高橋陽一さんには全世界のパン関係の仕事の人たちに謝罪をしてもらいたいものである。