「わたしを一緒に連れてって。」





目が合った瞬間、そんな声が聞こえたような気がしました。

私の庭のmy kizuna 、 ピンク・サクリーナとの出会いです。



2010年7月10日土曜日の午後、福島県は双葉町の「双葉バラ園」でのことです。



広大な庭園、ゆったりとした空間、大きな木々が並び、

その緑に溶け込むように植栽されたに7,000株以上もあるというバラ。

野バラからオールドローズ、モダンローズ、そして、全てのバラの交配親になったという4種類の原種。

時間が止まってしまったような感覚のまま、うっとりと庭園を巡りました。

どのバラもバラの特性を生かすように美しく仕立てられ、

道のカーブを曲がるたびに、新しく見えて来る次のバラの光景にときめきました。

まるで、サプライズが庭園中にばらまかれているかのようでした。

口から漏れるのは、感嘆の溜息ばかり・・・・・・・・・・。



どのバラにも魅了され、どれも素敵で・・・・・・・・・。

その中で、私のハートを掴んだのは、

5つのハートが可愛らしく並び、サーモンがかった明るく愛らしいピンクのバラだったのです。

紅色で長いまつげのように反り返った雄しべが、ウインクしているようにも見えました。

小さめの灰緑色の照り葉が、強健そうに見える一方で儚げな花姿。

儚げな様子が桜のようにも思え、日本人たる私の感性に訴えたのかもしれません。

帰宅後調べてみると、2005年仏作出(Richardier)で、ピンク・サクリーナという品種名は

桜をイメージしてつけられたとか

実際育ててみると、多花性で次から次へと開花して楽しませてくれますが、

一つ一つの花の命は短くて、桜が散るかの如くハラリ・ハラリと・・・・・・・。



 



この私のハートをわしづかみにした一目惚れのバラが、

私の庭で my kizuna  と呼ばれ、 記念すべきバラになろうとは・・・・・・・・・・。




 



そもそも、300kmを運転してまで、双葉バラ園に行ってみたいと思ったのは、

愛読していた園芸雑誌「花ぐらし」(休刊中)の2010年春号に、

あるガーデンフォトグラファーのお薦めローズガーデンの一つとして、

『山々の緑を借景にしたのどかなバラ園です。原種からオールドローズ、モダンローズまで

7000本のバラが植栽され・・・・・(中略)・・・・・目線の高さに仕立てられたオールドローズが

コンディションよく咲いており、株の間もゆったりと取られて・・・・・』と紹介されたことでした。

花の見頃チェックの為に、何度も何度も双葉バラ園HPにアクセスし、

併せて、園主岡田さんのバラに対する40有余年の取り組むお姿・お気持ちを知り、

感動を覚えていました。期待感が膨らむばかりでした。



前述の通り、期待以上の感動を与えてくれたバラ園でした。



夫曰く、「バラから来るおしゃれなイメージ通り食事ではなく、庭園でうどんをすすりながら

素晴らしいバラを鑑賞できるバラ園は、日本広しといえども他にない。気に入った!

陳腐な感動を口にするのが、我が夫の常です。

そんな夫と、「また、来年絶対に来よう。」と約束したのですが、その日は来ませんでした。

訪問から8ヶ月後の2011・3・11、全てが奪われたのは、皆さんの知るとおりです。



 



震災のショックから立ち直った頃、原発から数㎞しか離れていないバラ園には、

もう訪問できないと知り、ショックでした。いえ、それ以上に、

あの日、「ピンク・サクリーナは、どこにありますか?」とガーデンショップで尋ねたとき、

岡田さんが、「○列目の○○の辺りに、まだ一鉢だけありますよ。」と即答して下さった事を思いだし、

岡田さんが人生を掛けてきたバラへの想いが一瞬にして奪われてしまったであろう事に

自分のことのように愕然としたのでした。

私は、8歳からガーデニングを始めたと自称しています。45年以上になります。

私からガーデニングを取り上げたら、生きる張り合いも生きる意味もなくなってしまうと常々思っています。

その思いが、岡田さんの遭遇された出来事とダブったのでしょう。

一方的な私の思いですから、岡田さんには、大変失礼なことだと思います
岡田さんにはもっともっと深い想いや悲しみがあったことでしょうね。)

この時、ピンク・サクリーナを my kizuna と決めました。

双葉バラ園から連れ帰ってきたこのバラを私の庭で守っていこう!

訪問してくれる人達に、このバラの由来を伝えていこう!



 



余儀なき閉園の後も、岡田さんとバラ園のことがとても気になっていました。

その後も時々バラ園のHPにアクセスしていました。

その中で、埼玉に一時避難されていることや、息子さんが一時帰郷の許可でバラ園に行かれると

無人のバラ園でバラたちが変わらずに美しく咲いていたことなどを読み、胸が熱くなりました。



また時々、ランブリング・レクターのフラワー・ロープの美しい光景や

青梅のなる梅の古木に這いのぼったバラが、枝垂れ、咲き乱れる光景、

アイディアをわたしの庭にも取り入れたくなる素晴らしい仕立て方などを

切ない思いと共に思い出します。








今は、つくば市に避難され、新しい生活を始められていると

Rose Garden 坂野の庭日記」で知りました。


http://ameblo.jp/rosegardensakano/entry-1127595657.html (左をクリックしてください)


坂野さんの書かれた文章の中に、岡田さんのこんな言葉がありました。

『モダンローズは、大切に大切に育ててきて、ある日突然置き去りにせざるをえなかった。

双葉バラ園の子達を思うと、新しい子は育てられない。』

そして、新しいく造っている庭には、野バラを立った1本だけ植えた、と・・・・・・・・



 



大震災への想いは、人それぞれ。
復興支援に対する思いや関わり方も