ナレーション


昔、あるところの王様が
毎日、秘密のランチを食べていました。
召使のハンスはいつも、何を食べているか気になっていましたが
ある日、
王様が具合が悪い時に食べ残しをあることに気づき
蓋のあるお皿を覗いてみたら、白蛇が食べ残されていることを
知りました。
そして、なんと、それを食べてしまいました。
白蛇を食べたハンスは急に周りが騒々しくなったことに気づき
鳥や犬の話が聞こえるようになったと思い込みましたが
実は鳥や犬などの動物だけではなく人の気持ちも
話し声のように聞こえることがわかりました。
そして、とんでもないことになったことを相談をしに
こどものころから仲良くしてもらっていた森に住んでいるおばあさんのところへ
行くことにしました。
おばあさんは、ハンスの近所の人から「魔女」とよばれている人でした。


ハンス


おーい
おばあさんいるかい


おばあさん


おや、ハンスじゃないか
少し見ないうちにりっぱな大人になったね。


ハンス


ああ、今、お城で召使をしているんだ。
おばあさんこそ
全然、歳をとらないね。昔とちっとも変らない
さすが、魔女だね。


おばあさん


それは、ほめ言葉かね。
それに、魔女だなんて人聞きの悪いことはやめておくれよ
髪が黒くて、目が茶色で、肌の色が違うだけだろ
あたしはね。
遠い遠い東の国からお金で買われて連れてこられたのさ
いろいろあったけど、なんとか、病気もしないで長生きができたから
やっと、自由になれたんだよ。


ハンス


そうだったんだ
全然、そんなこと知らなかった。


おばあさん


いいんだよ
子供には話せない話さ
それより、今日はどうしたんだい


ハンス


あっそれなんだけど
実はいろいろあって
白蛇を食べちゃったんだ
そうしたら、鳥や犬、人間たちの心の言葉が聞こえるようになっちゃったんだよ
このままで大丈夫かなーっと思って
相談しに来たんだよ。


おばあさん


白蛇かい
あたしの生まれ育った町では、蛇を食べる人もいたけれど
白蛇じゃなくて普通の蛇だったし、特別な料理だったから
あたしだって食べたことないし
食べたからって、心の言葉がわかるなんて話は聞いたこともないよ


ハンス


そっかー
おばあさんでも知らないか


おばあさん


ああ、でもな、そういえば
占い師が蛇を食べていたような気がするなー
その占い師は良く当たると評判だった


ハンス


そーか、それだ


おばあさん


でも、それは、あたしの生まれた国ではなくて
オランダだったよ
あたしは、そこで働いていて
よく、その占い師のところへいったんだよ。さびしくってね。
でね、蛇を食べてるっていったわよ
そういえば、一度、食事をしているときにいって
そうそう、白ソーセージだと思ったら白蛇の串焼きだったのよ


ハンス


でも、占い師は食べてなんでもなかったんだ


おばあさん


そうね。
思い出したわ。
その占い師はロマだったのよ
少しきれいだったから、あたしみたいに買われてきたって
いってたわ
それで、ある程度の年齢になると客がつかなくなるから
お払い箱。
仕方ないので占い師になったっていってた
白蛇を食べる方法は代々その人の家に伝わっていたそうだよ


ハンス


えっロマ なーに


おばあさん


ああ、ジプシーのことだよ


ハンス


客って


おばあさん


娼婦だよ。女は人身売買と言ったらお手伝いか娼婦だろ


ハンス


おばあさん、苦労したんだね。


おばあさん


あー、あたしもね、もっと若かったら、あんたに、いろいろ手ほどきして
やれたんだけどね。


ハンス


黒髪に、ブラウンアイ、んー興味がないことはないけど
とりあえず、遠慮しておきます。


おばあさん


かわいげがないね。こうみえても昔は・・・
あー
白蛇だったね。
占い師のおねぇさんが言うには最初のうちは
食べてから1週間くらいは効き目があったけれども
そのうち、毎日食べないと占いができないって、言ってたわ。
白蛇は、ロマの人がとってきて、それを干物にして
煮込んで戻して、少しずつ食べていたみたい


ハンス


そっかー、だから王様は毎日ランチに食べてたんだ


おばあさん


えっ誰のランチだって


ハンス


いえなんでもないです。
料理チーフがふざけて
僕に食べさせたんですよ。そしたらこんなことになっちゃって


おばあさん


そうかい、とりあえず、何か体に支障があるとかは
聴いたことないよ


ハンス


そうですか
安心しました。ありがとうございました。


おばあさん


また、 遊びにおいで、
最近、歳のせいか寂しくってね。
そうだ、黒蜥蜴の干物もっていきな
あっあと、ヤツメウナギの干物も


ハンス


ままっまた来まーす


音楽


ナレーション


ハンスは、おばあさんのいる森からお城に戻りました。
戻ってみると、お城は大騒ぎでした。
お姫様の指輪がなくなってしまったのです。


ハンス


ただいまー
みんなどうしたんだい
何かさがしものかい


年上のメイド


ハンスどこにいってたのさ
お姫様の指輪がないって大騒ぎしているのに


ハンス


いやっちょっと
知り合いに会いに行ってたので


年上のメイド


ハンスが帰ってきたよー


侍従長


よーし、それでは広間へ全員集まれ

王様


静まれ、いまから、姫が、指輪がなくなる前のことを話す


お姫様


今朝、起きて、窓開けたときには
窓際にある、ベットサイドテーブルの上に指輪入れに
入っていたんです。
そのあと、指輪をしないで、朝食を食堂に食べに行っている間に
なくなったんです。
指輪入れの箱はあったのに
箱の中身が指輪ごとなくなっていたんです。


侍従長


えーと、窓は開いていたのですね。


お姫様


はい、開いたままです。


侍従長


でも、4階だから、外から入るのは無理だなー
梯子で入るといっても、朝だからすぐにわかってしまうだろ
今朝のベットメーキングは誰の担当だ。


年上のメイド


はい、あたしとハンスです。


ハンス


その時は指輪がありましたよ。


年上のメイド


そういえばハンス、小鳥が「おはよう」って言ってるって
窓辺でぼーっとしてたわね。


ハンス


えー、はい
小鳥たちが「おはよう」って、言ってたので


年上のメイド


何よそれ、びーちくぱーちく、言ってただけじゃないの
あっそういえば、部屋の掃除が終わった後に
出かけたわよね。


ハンス


はい、知り合いのところに行きました。


年上のメイド


とかなんとかいって、指輪を売りに行ってたんじゃないの


ハンス


冗談はやめてくださいよ。
そんなことしてなんになるんですか。


侍従長


まーよい
とりあえず、形式的にだが、しらべさせてもらうぞ


年上のメイド


何これ、ハンスのポケットになんか入ってる。


侍従長


んん、黒蜥蜴の干物?、ヤツメウナギの干物?


年上のメイド


そういえば、あんたのかぁさん最近具合が悪いって言ってたわよね。
指輪を売って、薬の代わりに変なものを買ってきたんじゃないの


ハンス


そんなことないですよ。
これは、貰ったんです。


侍従長


黒蜥蜴は知らぬが、ヤツメウナギは薬効があるときいたことがあるぞ
結構、高価なものらしいが


年上のメイド


貰ったって、どこで貰ったのよ


ハンス


あっあのー
森のおばあさん


年上のメイド


森のおばあさんって
あー、娼婦上がりの東洋人の怪しい女だね


侍従長


その女は森で何をしておるのじゃ


年上のメイド


なんでも、東洋の薬とかいって
ハーブだの、トカゲの干物だのを売ってるって聞いたことがあるわ


侍従長


そーか、売り物をただでくれるわけがないなー


ハンス


違うんです。
こどものころから、良く遊びに行ってたんです。
久しぶりに顔を見に行ったら
おみやげに持って行けって


侍従長


では、その老婆に聴けばわかるな


ハンス


聴くまでもありません。
私は、指輪など取っていないのですから


年上のメイド


口裏を合わせてるかもしれないわ
だいたい、娼婦の言うことなんて信用できないわよ


侍従長


王様、わたしが、その老婆に聴いてまいります。


王様


手間をとらせるなパウル、頼んだぞ。


ナレーション


昼過ぎに侍従長が戻ってきました。


王様


パウルご苦労であった


侍従長


王様、老婆の家に行ってまいりましたが
あいにく、玄関に「ヤツメウナギを取りに行ってきます数日もどらないかも」と
書いた札がかかっていて、誰もおりませんでした。


王様


そーか


年上のメイド


きっと、指輪を換金しに行ったのよ
そうに違いないわ


侍従長


しかたない
ハンス、森の老婆が帰るまで
搭屋の牢に入っていろ
いいか、ハンス。
もし、お前が取ったとしたら死刑だ
そうでないとしたら、なぜなくなったのか
牢の中で考えていろ


ナレーション


そんなわけで
ハンスは牢屋に入れられてしまいました。
つづく