「週末」という言葉は一般に平日が労働日であることとの対比から、

うきうき感と楽しさといったものを思い浮かばせるところがありましょうかね。


もちろん週末と言われる土日が出勤日の方もおいででしょうし、

はたまた何かと土日はお休みの施設・機関などが多いことから、

「困ったな…」という週末を過ごされる方もいらっしゃるとは思いますけれど。


ですのでタイトルだけから想像したところ(例によってあまり予備知識無し)では、

はてさてどんな週末が描かれておるのかと思って見た映画「サンドラの週末」は、

いやあ、とんだ週末を描き出しておったのですなあ。


サンドラの週末 [DVD]/マリオン・コティヤール


病気休職をしていたサンドラ(マリオン・コティヤール)が復職できるようになったとき、
一名減のままの状態で何とか仕事は回せると考えた会社ではサンドラに解雇を通告。
サンドラを雇い続けるには、残りの従業員16名のボーナス支給を見送らなければならないとして、
社長は判断を従業員に預け、
「サンドラの雇用継続かボーナス支給(サンドラは解雇)か」を
従業員16名が投票することになり、結果はボーナス支給が多数に。


ですが、この投票には主任(投票には不参加)から
「サンドラが解雇されなかったら、どのみち他の誰かが解雇されることになる」になると
圧力が掛かったとして、サンドラと友人が社長に直訴。

週末をまたいだ月曜日に再投票をする約束を社長から得て、
サンドラは週末をかけて従業員たちに会い、味方してくれるように説いて回る…。


というふうに始まる話なのですけれど、
特定の誰かしらを解雇するか、残りの従業員にボーナスを支給するかという選択を迫ることは
あり得ない設定なのではないのですかね。フランスにはあるんでしょうか。
「雇用継続かボーナスか」という二者択一に持ち込むこと自体がどれほど非人道的なことか、
そのことに全く考えてもみないということがありましょうかね…。


元々の休職がストレス性疾患であったと思われるサンドラは
先の投票で自分の雇用継続をとったのか、ボーナスをとったのか分からない同僚たちを
一人ひとり訪ねてまわるのですが、これの心労たるや推して知るべし。


誰しも生活に汲々とする中では訪ねてきたサンドラに居留守を使う同僚もあり、
サンドラにとってのこの週末の行動は病気に逆戻りさせられてしまうような状況でもあろうかと。
訪ねられた側でも(人によっては)思いは千々に乱れて…となりましょう。


ですが、サンドラの正念場はまさにこの週末にありと、

もはやぼろぼろの体のサンドラを夫も友人も「もっと訪ねまわれ」と叱咤激励する。

「泣き寝入り」させられてはたまらんだろう…ということではありましょけれど、

このあたりのところを見ていて思い出すことがありました。

先日のEテレ「知恵泉」で、フレッド・コレマツが取り上げられた放送です。


これを見るまでフレッド・コレマツの名を全く知りませんでした。
太平洋戦争に際して、米西海岸に住まう日系人が強制収容されたことは
以前に訪ねたロサンゼルスの全米日系人博物館やドキュメンタリー映画「442」、
そして小説「日々の光」でいろいろと知るところとなっていたですが、
この強制収容に断固抗議の声を上げたのがコレマツであったということです。


日系人コミュニティーの中では「お上に逆らう所業は我々にとっても迷惑」とされ、
コレマツは孤立してしまうのですけれど、番組のゲストであったパトリック・ハーランは
こんなことを言うのですよね。


「素直」は日本では褒め言葉だが、欧米の受け止め方に褒め言葉のニュアンスは無い。
確かに「素直ないい子」といった言い方がありますし、また素直さは
「聞き分けの良い」とも言い換えられますが、この日本的美徳は世界共通ではないわけですね。


「素直」で「聞き分けのよい」はともすると「長いものには巻かれろ」的にも通じますし、
そうした自己をはっきりさせないような姿勢は評価されないというか、理解されないというか。

他の日系人が静かに嵐の過ぎ去るのを待とうとする日本人的な姿勢が抜けきらない中で
コレマツは考え方、行動ともにアメリカ人化していて、それだけに黙っておられんわけですな。


と、そんなような違いが西洋社会と日本とにあるとして、
先のサンドラの行動、そして夫や友人の叱咤激励はまさに西洋的な行動なのでしょう。
そして、見ている日本人が「そんなぼろぼろになってまで…」と思うのは
極めて日本人的な発想なのかもしれませんですね。


裏付けと言えるかどうかですが、この映画でのマリオン・コティヤールは
アカデミー賞やセザール賞の主演女優賞にノミネートされたりしただけでなく、
全米映画批評家協会賞で主演女優賞を受賞したりしていますし、
作品自体もベルギー・アカデミー賞の作品賞やシドニー映画祭のグランプリを
受賞しているという点で、サンドラの行動は西洋的な見方からすれば
喝采され、賞賛されるべきものとされたのでありましょう。


「グローバル人材」などと言う言葉をよく聞かされるご時世ではありますが、
単に外国語ができるかどうかでなくって、彼我の違いを踏まえた上での処し方まで考えると
難しいものだなあと思ったりしましたですよ。


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