このほど東京・丸の内にある出光美術館
が開館50周年ということで、
「美の祝典」と題するコレクション蔵出し展が始まったようで。
3期に分けられた企画の第1弾は「やまと絵の四季」というものですが、
いつになく入場券売り場のところにベルトパーティションが置かれてあったのは、
美術館側として行列が出来る混み具合を想定していたのかも。
実際には実にゆったりと見て廻れるほどで、見る側には大助かりでしたが…。
「やまと絵」と言いますと、例えば「源氏物語絵巻」なんつうところが浮かんできますように、
年代的に古い作品であろうことから、展示作品の中には傷みが激しいこともあって、
これを愛でるとは素人にはなかなか難しいものもありましたですよ。
貴重だということは知れるとしても。
そんな中にあって面白いなと思ったものひとつが「吉野龍田図屏風」。
作者不詳の桃山時代の作品ですが、何事につけ派手好みの秀吉の時代だけあって、
六曲一双の大きさの中、右隻に吉野の桜、左隻に龍田の紅葉を
画面一杯に描き込んで溢れんばかり。
風景の中の桜や紅葉というでなく、かといって花々、木々の写実描写でもないことからすれば、
多分に意匠性で勝負しているふうだものですから、解説にもありましたように
琳派
を予告するかのような作品とはなるほどなと思いましたですよ。
もう一つは俵屋宗達作と伝えられるようですけれど、「月に秋草図屏風」という作品。
日本画では特徴的に余白を活かす術が伝わっているものと思いますが、
分けてもこの屏風の余白の大胆なこと。
これだけすっかすかだと、所々に配する草花のレイアウトに苦労するところと思うものの、
結果は見事に絶妙なものに。
お隣には「伊年」印ありで宗達工房の作品となりましょうか、「四季草花図屏風」が展示されて、
こちらはびっしりと描き込まれた煌びやか、艶やかな世界を現出しておりましたですが、
屏風が本来的に調度であることからすれば、「月に秋草図屏風」の落ち着きは
日常的にも室内に馴染むものであったろうと思いますし、
いざ眺めやれば気分を自浄的にリフレッシュさせる効能に繋がったのではと思いましたですよ。
ところで「やまと絵」というタイトルともマッチする特別展示には
どうしても触れておきたいところでありまして。
「10年ぶりの公開!」とびっくりマーク付きになっておりますのが国宝「伴大納言絵巻」で、
それだけ見られる機会は少ないということのなのでしょうね。
まずは「伴大納言絵巻」には何がどのように描かれているのかという、
わりとたっぷりした解説があって、大いに理解の助けになるところ。
これをじっくりと眺めて臨んだ「伴大納言絵巻」でありますけれど、これ、凄いですね!
何がと言って描写が非常に活き活きしている。
取り分け群集を描いて、その群集の置かれ方と同時に
群集を構成する個々の表情、しぐさといったものの描き分けがはっきりしていて、
かつ動き出さんばかりと言いますか。
一見してかように思ったものの、一端は「国宝と言われたプラシーボ効果か?」と疑い、
隣接展示を眺めやってまた「伴大納言絵巻」に戻ってみたですが、やっぱり印象は変わらない。
奈良時代に描かれたという「絵因果経」の展示を見れば、
プリミティブな、いわゆる「かわいい」絵が描かれてて、
日本美術の黎明期でもあるかなと思ったりしたものですけれど、
「伴大納言絵巻」は奈良に続く平安時代の作ということですので、
すいぶんと一気に描写のステップアップがあったものだと思ったのでありますよ。
「伴大納言絵巻」は上巻・中巻・下巻とありまして、
これを3期にわたる「美の祝典」で上中下と小出しに展示されるとのこと。
つまり、今回は上巻しか見られなかったものですから、
「次も行っちゃう?!」的な気分にもなろうかというもの。
うまい手でありますなあ(笑)。


