ドイツへの夏旅に出かける前に見て、また帰ってきて見た…てな感じになりますね。
先に損保ジャパン日本興亜美術館で見た展覧会
には
「旅の風景 ヨーロッパ周遊旅行」という言葉が添えられてましたが、
今度の八王子市夢美術館の方には「空想と歴史物語そして風景」とあって、
いくぶん対象が広がっていましょうか。いずれも安野光雅の世界なのでありまして。
まあ、風景の部分は
損保ジャパンの展覧会でも見たところと多少被っていたりしますので端折るとして、
空想と歴史物語の方に着目しようかと。
空想と言うと何やら夢物語的な感じがしなくもないですけれど、
自由な発想とでもいいますか、仕上がりを見るとトリッキーなものになっているというあたり。
安野作の絵本でもたくさん見られる部分でありますね。
「ABCの本」や「あいうえおの本」は1ページにひとつずつ、
「A」、「B」、「C」…とか「あ」、「い」、「う」…とか一文字をクローズアップして載せている、
ただそれだけ。
どう見ても「子供向けでしょ?」と思うところながら、その一文字一文字は
木工細工で作ったような立体感のある文字なのですが、
よく見ればどうその立体感には妙にバランスが悪いように思われるという。
オブジェそのものを見ると何のことやら?というものが、
いざ光を当ててみると、壁面に映った影の姿に「おお!」と思う福田繁雄作品のようでもあろうかと。
安野文字の場合には「この文字を本当に立体化できるか」とも思ったりしますが、
いくつかの文字を取り出して、実際に木材で立体化したものが展示されているのですね。
伸び上がって見たり、屈んで見たり、はたまた右へ左へと回り込んで眺めてみると、
本に描かれたような文字らしいものに見えるアングルは確かにあるわけです。
やはり福田繁雄作品だったか、エッシャー描くところの
「どこまでも続いていて果てがないのに、ちっとも上っても下ってもいない…」ように見える階段を
立体化したものを見たことがありますが、よく作るなあと(文字の立体化は安野作ではないですが)。
エッシャーといえば、それに近しい安野作品が「さかさま」でありますね。
とかげがぐるぐる繋がっていたり、色調が暗いトーンであったりするエッシャーの絵は
およそ子供向けではなかろうと(大人の目で見れば)思いますけれど、
安野作品はおちついているながらもカラフルで、子供も大人も安心してみられるといいますか。
と、展覧会の「空想」に相当する部分は絵本の話ばかりになってしまったですが、
「歴史物語」の方はひとえに平家物語を絵物語にした本の挿絵原画が展示されていました。
(「繪本平家物語」ですので、やっぱり絵本ではありますが…)
これが何とも見事なものでありましてですね、
画家・安野光雅の面目躍如(とはいささか他の作品に失礼ですが)。
画布は絹本ですかね。
それを活かして光沢ある画面に平家物語のさまざまな場面が描き出されている。
ミュージアムショップに「繪本平家物語」そのものが置いてありましたですが、
こりゃあ原画で見ないとなぁと思うところです。
これを描いたときに作家は「新境地開拓か?!」みたいに言われたらしいのですけれど、
「他の作品と同じ根っこから成り立っている、何も変わったわけではない」てなことを
言っていたという。
確かに昔の子供(作家は大正15年生まれ)は人工的なヒーローでなくって、
歴史上のヒーローと近しいところにあったでしょうから、
遊びの中でも義経になって鵯越の逆落としの真似をしたり、
那須与一よろしく弓矢で的を狙ってみたりしたのではなかろうかと。
そう考えると、子供心を失わずに作品作りに向き合う中で
「繪本平家物語」のような作品が出てきても驚くには当たらないということになりましょうね。
来年2016年には90歳におなりのようですけれど、
子供にも大人にも楽しめる作品としてこの後はどんなものが飛び出すか、
興味あるところでありますよ。


