TVでもってウナギの品薄とウナギ代わりの食べ物として「ナマズがあるよ」と紹介していたことを
以前のブログに書いたのはもう2年半も前になりますか…。


その後もウナギの状況に大きな変化はないのか、

鰻の蒲焼きを提供する店が次々廃業とは聞いていませんし、
反対に蒲焼の値が下がるてな話も一向に聞こえてこない。
つまりは何とかウナギが絶滅しない程度に需給バランスは取れているということでありましょうか。


で、2年半前にですが、

ウナギの代わりに食するナマズとはどんな?との興味から鯰料理の店を探したりしたところ、
東京でも川魚料理を扱う店の中には鯰を出すところもあったりすることが分かったですが、
さらに調べを進めてみれば、埼玉県吉川市は「なまずの里」として売出中(?)とのこと。


どうやら昔から鯰の食文化が維持され、同時に食用ナマズが養殖されており、
これを使った料理を提供する店が複数ある…というのが吉川だというのでありますよ。


そうと分かれば…てな思いはあったものの、これがなかなか微妙な近さというか、遠さというか。
そのうちに、そのうちにと思っているうちに2年半、いやはや時の過ぎるのは早いものですなぁ。


それはともかく、ふっと思い出したタイミングで意を決し、

吉川へと鯰を食しに行ってきたというお話であります。


なまずモニュメント@JR吉川駅前


JR武蔵野線の吉川駅、南口には早速にナマズのモニュメントが鎮座しているという。
たぶん夜になるとライトアップもされるのでしょうなあ。金ぴかだけにかなり目立ちそうです。
ちなみにモニュメントの由来にはこのように書かれておりました。

吉川は、古くから中川を利用して東国物資を江戸に送るための舟運の拠点として栄え、中川沿いには河岸が築かれ多くの旅籠や料理屋が建ち並び、定期的に市なども開かれていた。昔からなまず料理をはじめとする川魚料理が盛んで、現在も伝統を守り続けている店もあり、多くの人に食され関わりも深い。

確かに中川と江戸川に挟まれた土地柄で、

物資の輸送を専ら舟運が担っていた頃には栄えたのでしょう。
ですが、こう言ってはなんですが、今ではかなり寂しい状況かも。


駅前には「東京へ直通する鉄道の開通を!」みたいな横断幕がありましたですが、
西にふた駅で東武線に、反対側に4駅でつくばエクスプレスに、

それぞれ乗り換えて都心に出られる位置とあっては

これ以上の直通路線の建設は難しいのが現実のような。


なまずの里よしかわ


それでは観光でひと旗挙げてというのが「なまずの里」てなキャッチフレーズなのかも。
お店の中にはナマズ関連商品として煎餅だかまんじゅうだか、

そうしたものを扱ってもいるようですが、街全体としては大いに力を入れている…ふうでは

とてもありませんですね。


と、それはともかくいわゆる地方っぽい普通の町を歩くことしばし、目指すお店に到着しました。
途中の道々にも「なまず」と書かれた幟旗を見かけたりはしたものの、
創業400余年と格段に歴史があるっぽい「料亭 糀家」にしてみたのでありますよ。

料亭糀家@埼玉県吉川市


しかしまあ、ここまで来て詰めが甘かったと思われるのは
「なまずづくし」なるコース料理は夜だけだったということ。
仕方が無いので鯰も含めて提供される川魚御膳を頼んでみることにしたわけです。
(「かわざかなごぜん、お願いします」と言いましたら、「かわうおごぜんですね」と…)


なまずの卵の煮付けと鯉の洗い


まず最初に出されたのが、こちらのふた品。
右側が川魚の王道「鯉の洗い」、そして左側が「鯰の卵の煮付け」と
早速に鯰が登場いたしました(写真のはすでに少々いただいた後でして…)。


でもって、卵の煮付けのお味はといいますと、
鰈の煮付けかなんかで卵を抱いたのがありますけれど、ちょうどあの感じですね。
昼間だったので「飲み物はお茶で」と言った矢先、早速にビールを頼んでしまいました。


ちなみに鯉の洗いは必ずしも珍しいものではありませんけれど、これは旨い!
こんなに旨い洗いを食べたのは初めてではなかろうかと。

たぶん、活きがよいものだったのでしょう、ほとんどパサパサ感がありませんでしたから。


なまずの天麩羅&たたき揚げ


さてお次のふた品は本日のメインとも思しき鯰料理、天麩羅とたたき揚げというもの。
たたき揚げとは、天麩羅にする身を削いだ残りの部分、骨やら何やら含めて

叩いて叩いてまるめて揚げたものだそうですが、

つみれのように中がぎっしり詰まっておらずにふわぁっとした食感。
時折、骨の名残りが小さいながらも「硬っ!」となることもありますが、これまた旨し。


たたき揚げを割ってみたところ


そして天麩羅ですが、これもふんわり柔らかく、衣のサクサク感とのマッチングもよし。
と、思いがけずも鯰の旨さに感動しかけたところへ、

〆として出て来たのがどうやら真打ち登場ということになってしまいました。


言わずと知れたウナギの蒲焼き


小さかろうが何だろうが、鰻の蒲焼きでありますよ。
さすがにこれが出てきてしまいますとねえ、ナマズも「喧嘩にならねえ」としっぽを巻いて…。


「なまずづくし」なるコースを食していたらば、鯉の洗いや鰻の蒲焼きの代わりに
鯰の刺身、鯰の照焼、鯰のマリネ、鯰の団子汁が加わったわけで、
さすれば一も二もなく鯰料理に大満足して帰途に就いたものと思うところながら、
結局のところ鰻の旨さを再認識することになってしまったような。


ですが、鰻と比べることを抜きにすれば、
予想以上に鯰料理は旨かったというのも本当のところ。また食べたいと思いますしね。
ま、中途半端に遠いところまで食しに出向いた甲斐はあったというものでありますよ。


と、ここからはちとおまけですが、老舗の料亭だっただけあって、

美術工芸品のコレクションもなかなか見ものでありました。


谷文晁「鯰図」


まあ、お店柄ナマズの絵があるのはごもっともですが、

谷文晁の作とあって大層活きがよろしいようで。


上村淳之「鴫」


こちらは食事を取った部屋に掛けられていましたですが、上村淳之の「鴫」という一枚。

水辺に近い吉川の町にあって、昔はこんな鴫立つ沢の風情があったかも。
実に爽やかで素敵な絵であったなと。


片岡球子「富士」


もひとつ、こちらは上村作品の清楚さとは対照的に
エネルギー爆発!の片岡球子作品、「富士」であります。
この他にもいろいろと佳品が並んでいて、楽しみは食事に留まらずでありました。