これまた内容もよく知らずに何となく見たのがアメリカ映画「欲望のバージニア」でありました。

バージニア州のフランクリン・カウンティーはWikipediaによりますと、

「禁酒法時代、地元民はフランクリン郡を『世界の密造酒首都』と呼」んでいたと、

まあ、そういう場所を舞台にしたお話。


欲望のバージニア [DVD]/シャイア・ラブーフ,トム・ハーディ,ジェイソン・クラーク


そうした場所で密造酒の製造販売を手掛けたボンデュラント兄弟の、

史実をベースにした話でありまして、

主人公たちの行いは何せ密造酒ですから違法なのでしょうけれど、

これを取り締まる側、国の財務省の捜査官というのがさらに悪い奴ら。


黙って見過ごしてやるから、それなりの見返りをよこせというわけですね。

言うことをきかないと密造業者をしばきまくる捜査官を演じるガイ・ピアースの悪代官ぶりが

あまりに板についているものですから、これに敢然と(?)立ち向かうボンデュラント兄弟の方が

むしろヒーローに見えてくるというものでありますよ。


英語のオリジナル・タイトルが「Lawless」ですけれど、

いったい全体、本当の無法者はどいつだ?と思えてくるわけで、

何だかモノの見方にゆがみが生ずるというか、何というか。


同じ禁酒法の時代でも、シカゴを舞台にやくざの大親分アル・カポネを追い詰めていく

エリオット・ネスといった財務省の捜査官もいたですが、

彼らが「アンタッチャブル」と呼ばれた、その「アンタッチャブル」とは

「買収には応じないぜ」てな意味合いであったとか。


それだけ捜査官の買収というのが多々あったのでしょうけれど、

フランクリン・カウンティーのようにむしろ捜査官の側が貢物を強要するのもまた

よくあることだったのやもしれませんですね。


で、捜査官はもっぱら密造業者をいたぶるところが描かれますが、

一方では彼らが売りさばいた酒をどんどん飲み干していく一般消費者(?)がいる。

こちらの方に対しては「今日のところは大目にみるが、次はそうはいかないぞ」と諭すとか、

そういった場面は全くありませんですね。


禁酒法なんだから当然飲むこと自体違法なんだろうと思っていたわけですが、

機会ですので「禁酒法」に関する本を読んでみますと、どうやら全くの誤解であることが

分かりました。いやはやです。



禁酒法―「酒のない社会」の実験 (講談社現代新書)/岡本 勝

どうやら禁酒法というのは、

酒類の製造、販売、輸出入を含む輸送といったことを禁止しているのであって、

酒を飲むこと自体は禁じられているわけではないのだとか。


ですから、禁酒法施行が決まるに及んで、

個人でも予算の許す限り、膨大な買いだめをしたようなこともあったようですが、

こうした買いだめ分を禁酒法を自宅のパーティーでばんばん飲んで、

飲んだくれようが何だろうがお咎めなしだったと。


また飲食店などでも、酒を売っちゃいけないのなら

例えば会費制パーティーみたいにして、ふるまうものの中にお酒もありますてなことを

やっていたようなこともあるらしい(こういうのを脱法行為と言うんでしょうなぁ)。


しかし、さすがに買いだめも底をつきましょうから、

飲むことを禁じなくとも飲めなくなると踏んでいたんでしょうか…てなふうにも思いましたが、

そも禁酒法の発端は(歴史的はかなり深いところがあるものの、それは端折って)

酒場の撲滅にあったようでもあります。


深酒がよろしくないのはもちろんながら、

酒場が賭博、麻薬売買、売春などといった犯罪行為の温床になっている。

これを何とかせねばいかんと。


道義的主張としてこれに賛意を示す人もいたでしょうけれど、

それだけで法律が通るとも思われない。

時は1920年代、アメリカの産業はいけいけどんどんだったわけですが、

産業資本家たちが禁酒法に賛同したのだそうです。


なんとなれば、アルコールが入っていない素面の状態で工員たちが仕事につけば、

作業効率が上がるてなふうに考えていたようなのですね。

かの?ロックフェラーといった巨大企業家も相当テコ入れしたらしいのでありますよ。

「ブルワース」ではありませんが、巨大資本と政治家は切っても切れない仲であるのか、

禁酒法成立のひとつの背景でありましょうね。


禁酒法をめぐっては賛成派を「ドライ派」、反対派を「ウェット派」と言ったらしいですが、

(身体の中にアルコール分が完全に乾いているかどうかということらしい)

中には「モイスト派」(湿り気少々)なんつうのもあって、禁酒を求める度合いというのが

人によってさまざまであったらしい。


さすがにアルコール度数の高い蒸留酒はだめだろうけれど、

ビールくらいの度数なら問題なかろうと考えたりする向きもあり、

また「酒は百薬の長」に類する考え方もあったり。


とにかく酒場を取り巻いくさまざまな犯罪を抑止するのは分かったとして、

「だからといって一滴も飲めないという話はなかろう」的なところから

およそ真剣に遵守する感覚の根付かない法律ではあったようですね。


だからこそ、酒の密輸も、密造酒の製造ももぐり酒場の営業も

たくさんあったのでしょう。


改めてですが、禁酒法は1920年に施行され、1933年に廃止されました。

今まで映画なんかも漠然と見ていたですが、禁酒法時代とはその頃のことで…といった

状況の理解がいくらか進んだような気がしますですよ。