先だって深川の富岡八幡宮にある伊能忠敬像
に接したときから
探究の対象としてぐぐっと浮上してきていたですが、例によってそのまま潜り気味。
そんなところへもってきて、
ちょっと前のヒストリーチャンネルで伊能忠敬を取り上げた番組があったものですから、
(といっても、BS歴史館いうことなので、NHKのアーカイブですね)
録画しておいたのをようやっと見た…ということで、伊能忠敬のお話であります。
日本中を測量して歩いて、正確な日本地図を作ったひと。
後にも先にも伊能忠敬はそういう人であろうと理解しておりまして、
それが外れてはいないものの、随分と漠たるものであったなと改めて。
何しろ忠敬が測量の旅に出るのは、何と!56歳になって初めてであったとなれば、
それまでいったいどこで何をしていたの?とも思うわけです。
全国を測量して歩くなんつうことは、当時においてはなおのこと、
国家プロジェクトとも言えることであったろうとは想像したものですから、
必然的に幕臣としてそのあたりの技術に秀でた人だったのではと思うと、これが大外れ。
下総国佐原にある造り酒屋(伊能家)の入り婿であったそうなのですよ。
婿に入った先の家業が傾くようなことがあってはいけんと、忠敬さんは頑張ったようです。
働いて、働いて、働いて…今の貨幣価値に換算すると60億円とも言われる財を
なすにいたったそうな(本当かな…)。
家業は安泰、50歳になったのを潮に家督を息子に譲って、自身はそれこそ楽隠居の身の上に。
これで好きなことが思う存分できると思った忠敬は、予て興味を抱いていた天文学を究めるべく
ひとり江戸に出、幕府の天文方であった高橋至時に教えを乞うことにしたのでありました。
必至で働いていた頃には封印していたかもですが、生来科学的な興味が旺盛だったのでしょう、
ほどなくして地球一周はどれほどの距離であるのかを調べることにした忠敬。
昔々エラトステネスが2地点間の距離とそれぞれの南中高度の違いとから計算したのと
同じような手法で挑むことにして、2地点を自宅のある深川から天文方のある浅草までを
歩測によって距離を求めたのだとか。
されど2地点間の距離が短いと誤差が大きくなりやすいことを師匠の高橋至時が指摘、
「せめて江戸と蝦夷地くらいの距離がないと…」と呟いたところ、
忠敬は俄然その気になってしまったというのですが、
造り酒屋の隠居ふぜいがおいそれと蝦夷地探険に乗り出せるようなご時勢ではないわけです。
ですが、忠敬の本気度を見てとった至時の進言で蝦夷地行きの許可がおりるのですが、
名目としてはそれまで蝦夷地の正確な沿岸図を作ること。
折しもラックスマンに率いられたのを筆頭にロシア船が度々出没するようになっており、
蝦夷地の海岸線を把握することは焦眉の急だったのですね。
とはいえ、天文方の推挙とはいえ町人の隠居一行ですから、
幕府はいっさい金を出さず、すべて忠敬が自前で賄ったのだといいます。
賄えてしまえる財を、やはり持っていたのですね。
出来上がってみれば、蝦夷地の沿岸を詳細に記した地図になっていましたから、
今度は東日本の分を作れということになり、また測量の旅に出る忠敬。
この東日本の沿岸図が将軍家斉の目にとまり、
忠敬は幕臣に取り立てられた上で、改めて幕命で西日本の地図作りに踏み出すわけです。
ちなみに幕命となると身銭を切る必要もありませんが、幕府も出すわけではなく、
行った先々が幕府御用として面倒をみることになる。
天下普請みたいなものですね。常に金は諸藩に出させるという…。
こうして日本の沿岸をくまなく歩きつくし、日本の全体像が浮かびあがることになりますが、
正確な日本の形を目の当たりにしたのは、この伊能図を見た人が初めてだそうな。
今でこそ日本の形は誰もが知っているわけですが、
当時としては、宇宙からでもないと実際の目では見ることのできない形が
そこに示されていたというのは驚愕もので、かつ国家機密であったようですね。
だから、シーボルト事件が起こったりするわけで。
ただし、忠敬が作ったのは詳細な沿岸図であって、今日言う所の地図とは違うようです。
日本じゅうをくまなくとは行っても、役割の性格上、内陸部は踏破していない。
番組の中で触れられていたように、例えば利根川が描かれていない関東地方となると、
本来的な地図としての役には立たないとの話はごもっともではありますね。
とまれ、伊能忠敬の足跡を掛け足でたどってみますと、
50歳にもなれば隠居で悠々自適(そうでない人もいたでしょうけれど)とはいえ、
むしろそれからの人生でこそなにごとかを成す人もいるという、
よく考えれば分からないわけではないことに思い至りますね。
せっかく生きているのならば、「もう」と考えるよりは
やはり「まだまだ」と考えていた方がいいでしょうし、
成すことの大小は別として生きている甲斐もあるということになりましょうね。