ドバイに建てられたブルジュ・ハリファのような

超高層建築物 を可能にした歴史的な技術革新と言いますか、
そうしたことを紹介するTV番組をしばらく前に見ましたけれど、

同じような仕立てでもって今度はトンネルのお話。


全然知らなかったですが、

ヨーロッパ・アルプスの山懐を打ち抜いて(2010年に貫通はしたらしい)
ゴッタルドベーストンネルというのが、現在もなお建設中。

その長さたるや57kmに及ぶそうで、

完成すれば青函トンネルの53.85kmを抜いて世界一になるそうなんですね。


とここで注釈としては、車や鉄道を使って人が通り抜けることを想定していない、
例えば水道用のトンネル水路だと147kmなんつうのもあるらしいです。


でもって、世界一みたいな背比べをするときにはいろんな物差しで測られるわけでして、
トンネル全長で現在世界一の青函トンネルも、海の底を掘り抜いた長さ、

つまり海底部の長さでは英仏海峡トンネル(全長50.49km、海底部37.9km)が

青函トンネル(海底部は23.3km)を上回って一番なのだとか。


とまれ、建設途上ではあるものの、

ゴッタルドベーストンネルという長大なトンネル工事が可能になるまでには
さまざまな技術革新が必要だったわけですが、

そこらへんを歴史的に見てみようというわけですね。


最初のトンネル工事の例に挙げられたのが、

産業革命を経て渋滞の甚だしくなっていたロンドン
テムズ川の下にトンネルを通そうというもの。


地底には柔らかな土の層もあれば堅い岩盤の層など一様ではありませんけれど、
柔らかい所は掘り進みやすいものの、崩れやすいですから、

ある程度の堅い層を狙って掘ることになる。


ですが、当時の技術ではついうっかりと柔らかい層でも掘ってしまおうものなら、
頭の上には水が満々としたテムズ川の流れがあるわけで、

工夫たちも進むにつれてトンネルに入りたがらなくなってしまう。


そこで、当時考えられた最新技術がシールド工法というものであったそうな。
その頃とは格段に進歩した形で今でも使われている工法と思いますが、

簡単に言ってしまうととにかく掘ったそばから壁面で固めていってしまうというもの。


なんでもブルネルというフランス人技師は、木に穴を開けて食い込んでいく

フナクイムシ(ムシといいつつ貝の仲間らしいですが)の行動にヒントを得て編みだしたのだとか。
自然に行われていることのすごい点に気付くかどうかなのでありますなぁ。


こうしてテムズ川の下を通るトンネルは1848年に開通を見るのですが、
ひとつの技術はさらに長いトンネルを作れるのでは?という期待にも繋がってもこようかと。


そうして利便性の達成のためにどんどん長いトンネル工事に挑戦していく中で、
いろいろなことが克服されていくのですね。


掘りながら固めるのはいいとして、

一端固めたとしてもトンネルの上の地層や水から掛かる重圧に耐えられるかどうか。


これがゴッタルドベーストンネルのように、

上にのっかっているのがアルプス山塊となれば大変なものでしょう。


また、掘り進むにつれ外気から遠ざかるために坑内の温度は高くなりますし、

空気の通りも悪くなる。
開削に発破を使ったりすれば、

一酸化炭素中毒なども危ぶまれるようになるため、通気性の確保が必要になります。


この点では「だから、トンネルは2本で作られる、

あるいは補助坑や作業坑のようなものが並行しているのだな」と思ったものでありますよ。


2つのトンネルを並行させて、途中途中に行き来のできる穴を設け、

片側から巨大送風機で空気を送りだせば、途中の澱んだ空気もろとも

もう一方のトンネルから噴出させることができるわけですね。


そして、2本のトンネルを途中途中で結ぶ部分を作っておくということにすれば、
ゴッタルドベーストンネルのような長大なトンネルの内部で万一火災が起こったりした場合にも
事故車両のある側とは別のトンネルの方へ乗客らを避難させて閉鎖すれば、

煙にまかれることもないという完成後の安全対策に役立てることもできるのだとか。


聞けば聞くほど「すげえなぁ」と思う壮大な計画で、それを実現する技術もすごければ、
工事に携わる人たちの大変さも一方ならぬものであろうとは思いますですね。
それによって、また大きな利便性も手にすることができるわけですし。


ではありますが、チューリヒとミラノを結ぶという、この長大トンネルが完成した暁には
あっという間にアルプスを越えて…でなくて、アルプスを潜り抜けてしまうことになりますね。


時速200キロの列車で57km走るとすれば、17分くらいでしょうか。
その間、車窓から雄大なアルプスの山並みが見えるわけでもなく、
車内灯の反射で窓ガラスに映る自分の顔をぼんやり眺めるだけ…とは

およそ旅情とは遠いところではなかろうかと。
新幹線に乗るときに近い感覚かもしれません。


もっとも、旅情などそっちのけで

新幹線車内ではPCやタブレットを操作するビジネス客が数多おり、
欧州域内の移動に関しても、迅速な移動を求めるビジネスユースの需要が多いのかもですね。


こうしたことをシンプルに「良かった、助かった、ありがたい」と考えるべきなのかもですけれど、
「また急かされることになるわけね」とも思ってしまうようなところもあり、
そう考えると自然の不思議の利用から始まった技術革新の延長線上には、
ずいぶんと自然から離れたところが待っているような気もしてきますですね。