映画「ブロードキャスト・ニュース」には(…と藪から棒ですが)、

生まれも育ちも個性も異なる3人がキーTV局のワシントン支局の同僚なって出てきますですね。


ブロードキャスト・ニュース [DVD]/ウィリアム・ハート,アルバート・ブルックス,ホリー・ハンター


アーロン(アルバート・ブルックス)は15歳で高校を卒業という飛び級程度に頭のいい子供。

高校の卒業式ではスピーチに立ち(ということは、総代か?)、

天才であるが故の苦労(いじめられる?)に触れるや、

同期たち(つまり、本当の高校3年で15歳のアーロンとは全く異なるがっちり体格)に

ぼこぼこにされる。


いつものことなのか、殴られるままにしながらも

「お前らなんかは、せいぜい年収1万9000ドルの生涯を送るんだ!」と笑い飛ばすんですな。

殴ってた方は、互いに1万9000ドルなら悪くないよなと話しながら去って行くんですが、

1987年の映画であることは触れておきますね。


一方、ジェーン(ホリー・ハンター)もまた頭は切れるようながら、それがいささか鼻につくタイプの女子。

たくさんのペン・フレンドを抱えて返事を書くのに遅くまで起きていて、

父親に「文通もいいが、取りつかれてはいかん」とたしなめられてしまいますが、

その父親に対して「取りつかれるというのは、精神分析の用語よね」と噛みつくんですな。


曰く、ひとつのものごとが頭をを離れず、他のことが手に付かない…

こういう状態を指すわけで、自分はそうではない。

パパは日頃から「言葉は正しく使いなさい」と言っているのだから、

パパも言葉を選んでつかってよね、おやすみ!と。


その二人が同僚として先にいた職場にやってくるのが、トム(ウィリアム・ハート)。

自分では頑張っているのだけれど、成績はCとDと不合格と…。

もっと頑張ると自分に気合を入れる様子を父親に見せるものの、

その後の様子は推して知るべし。


とまあ、こんな3人がTV局で同僚になるわけですが、

どうやら見た目のよろしい(と、個人的にはあまりそうも思いませんが)トムは

TVという特性もあってか?ワシントン支局のレポーターからロンドン支局に栄転、

やがてニューヨーク本局でメイン・ニュース番組のアンカーマンとなるのですね。


ジェーンは支局の敏腕プロデューサーとしてニュース番組を仕切り、

ワシントン支局長を経て、本局の報道部長へと出世を遂げる。


そして、アーロンはと言えば、

持ち前の才を活かして鋭い現場レポートを送るレポーターとして活躍していたものの、

リストラ対象に挙がったことを知るや、自ら辞表を叩きつけてオレゴンのローカル局に再就職。


映画の話としては、男二人、女一人となれば当然に予想されるような出来事や

ニュース番組制作の裏側にも触れたりといろいろあるわけですが、

ここで目を止めたいのは別の側面でありますね。


飛び級して16歳の大学生となった後も、

頭の切れは相変わらずで人生を送ってきたものと思いますが、

はてオレゴンのローカル局に移ったアーロンの年収は「1万9000ドル」を

どれほど上回るものであったかどうか。皮肉ですね。


その一方で、落ちこぼれ寸前で過ごしてきたトムは後々全米に顔を知られ、

ある意味、影響力も及ぼすニュース番組のアンカーマンとして相当な年収を得ることになる。

見ようによっては、トムのアメリカン・ドリーム・ストーリーと言えないこともない。

とてもいい大学をいい成績で出た…とかいうことではないでしょうし。


こういうことがあるから、アメリカはいい、夢がある…てなことを言うつもりはさらさらなく、

むしろアーロンが(頭の良さというものに見合ったその後を送れているかどうかはともかくも)

ワシントンを飛び出してオレゴン(相当な都落ち意識でしょうけれど)で

新規巻き直しできるといった人生のセカンド・チャンスの可能性を信じられるのは、

日本より多様性があるかなと。


年功序列賃金のもと、勤めたら会社とは運命共同体であって

定年まで勤め上げることを是としていたところからは日本もずいぶん変わったものと思いますが、

それでも労働の流動性はとても限られたものになっているのではなかろうかと思いますですね。


それは、転職するたびに状況は好転するどころか、悪化するようなところもありましょうし、

社会人となってから、別の何かにトライすることへの認知はおよそない。

大学における社会人比率が、日本は欧米に比べて極端に低いと言われますけれど、

まあ当然だろうなぁと。


ですから、大学卒業段階の就職はその後の一生を占うものとなるわけですね。

何しろ「やり直しのきかない人生」でしょうから。

でも、やっぱり何か変、どこかが変ですよね。


どこがどう変なのか、も少し考えを整理して別の機会に。

尻切れトンボで申し訳ないですけれど…。