ウィーン から夜行列車で出て、ドイツへ向かったというところまででした。


その道々、ザルツブルクもミュンヘンも立ち寄らずに過ごしてしまったのですから、
いったいそのときに訪ねようと考えた基準はどこにあったのだろうと、我ながら不思議に思うところです。
(ですので、ザルツブルクとミュンヘンにはその後別の機会に出かけました)


で、その目的地でありますが、ミュンヘンで乗り換えたローカル線をさらに乗り換えてフュッセンへ。
フュッセンからはまたバスに乗り、ようやくたどり着いたのがホーエンシュヴァンガウというところ。

バイエルン王ルートヴィヒ2世が築かせたお城、ノイシュヴァンシュタインの麓に到着したのでありますよ。


この辺りは、バイエルン・アルプスにも近い山がちなところだけに、あたりは一面の雪景色。
ノイシュヴァンシュタインへと続く山道も、季節が良ければ快適に登れるのでしょうけれど、
これがまあつるつるの状態になってまして、木柵につかまりながら腕の力で登っていったような次第。


しかしまあ、観光写真などでよく見かけはしたものの、
その本物が目の前にあるというのはなんとも気分が高揚するものでありますね。


中を見て回って、ワーグナーの「ローエングリン」からの場面を描いたと思しき大画面の絵画には、
こういっては何ですが何やら少女漫画っぽいものを思い起こして、うむむとなったものですが。


…と、ここいら辺までで全体3週間の旅の内の2週間が過ぎて、残り1週間。
ローマで宿探しに難儀したことももはや遠い昔にように思われ、

すっかり旅慣れたふうに感じていた頃かと。


そうした余裕があったればこそだと思いますけれど、フュッセンの駅に戻ったところで、
ここまで共に旅してきた友人と別行動をとることにしたのでありますよ。


元々からして「スイスでスキー」に釣られたところもある友人としては、
実際スイスでのスキーはどえらく楽しめたことからも、
またドイツ南部の雪だらけを見ては近くでスキーができるはずと踏んだのですね。


それはそれで魅力的ながらも、大学の第二外国語でドイツ語をわりと一所懸命にやった口としては
これからドイツを回ることをむしろ楽しみとしてもいたという。


こうして話はすっかりとまとまったわけです。
残り1週間をそれぞれに自由に回り、帰国便の出る前日に用意されたパリのホテルで再会しようと。
携帯電話など無い時代ですから、ここで別れた後は途中一切連絡がとれないのですが、
そんなことは全く気にしていなかったですねえ。


とまあ、こんな具合にして、本当のひとり旅がここから始まりました。
フュッセン駅で友人と別れ、ひとり乗り込んだ列車で向かったのはニュルンベルク。


予め行こうと思っていたかというと、そうでもなくって、
ひとつにはノイシュヴァンシュタインでワーグナー絡みの絵を見たことから
「そう言えば、マイスタージンガーのニュルンベルクではないか」と気付いたことと、
もうひとつの理由は時間的に移動後、ホテル探しをできるくらいに余り遠くないところということ。


こうしてたまたまニュルンベルクに向かったのですけれど、
ニュルンベルクで列車を降り、駅構内を進んでいたとに「おや?」と。
たった今すれ違った人を、思わず振り返ってしまったのですね。


「あれ、同じクラスのSさんでないの?」
大学にも一応クラス分けがあって(あんまり機能していたような気はしませんが)、
フュッセンまで一緒に回った友人も同じクラスだったですが、一人と別れたら程なく
また別のクラスメイトと接近遭遇したことを「ほお~、こんなこともあるかいね」と思ったのでした。


見たところSさんも一人で行動していたようでしたが、
大きいスーツケースを転がしていたので、そうそう方々を回って歩く旅行でもないんだろうなぁと思ったり。
こうした点でも、ザックひとつ担いで回るこれからの一週間が何とも自由な、
そして就職したらおよそとれない時間になるのだろうなぁと思ったものでありますよ。(つづく)