しばらく前にテンプル騎士団 の生き残りがアメリカ大陸に渡って・・・というような話を

「ふむふむ」と思って見ていたのですけれど、たまに見てみると面白いものをやってますね、

ヒストリー・チャンネルで。


昨晩見たのは「トラファルガー海戦~知られざる英雄たち~」というもの。

トラファルガーの海戦といえば、欧州の陸地を制覇したナポレオンが

海上の覇権をも英国から奪取すべく1805年に起こった一大海戦でありますね。


英国艦隊司令官のネルソン提督はこの戦いで自らの命を落としたものの、

艦隊の勝利を得てヒーローとなり、ロンドンのトラファルガー広場に記念塔が建てられ、

その高い天辺に像としてあたりを睥睨する姿を今にとどめているわけです。


つまりこの英国の威信をかけた戦いは、ナポレオン麾下にあるフランス・スペイン連合艦隊と

英国艦隊との激突なだけに英国軍人一丸となって…みたいな印象で受け止めていたわけです。


ところが、こたびの番組タイトルにある「知られざる英雄たち」とは誰のこと?と思ってみれば、

このときの英国海軍は(下士官よりも下の人たちでしょうけれど)国籍的に相当な混成部隊であったとか。


例えば、詳細な記録が残されていたHMSベレロフォン号でいえば、

スウェーデン人、ポルトガル人、アメリカ人、インド人、ジャマイカ人、果てはフランス人まで。

実にさまざまな人たちがナポレオン軍を相手に戦っていたというのでありますよ。


そしてこのさまざまな出自の人たちが英国海軍の船に乗り込むに至った経緯というが、

人それぞれながら大層ドラマチックといいましょうか。


スウェーデンの人の場合には、乗っていた船ごと拿捕されて奴隷となったものの逃亡を図り、

逃げ込んだ先が英国海軍の軍船であったそうな。


相手はイスラム勢力だったようですが、奴隷を返せといってきたことに対して、

やはり船、とりわけ軍船ですし、治外法権があったのか、きっぱり断ったのだと言います。


それを恩義に感じて(とは番組の中でも言ってなかったので憶測ですが)

英国海軍の一員としてトラファルガー海戦にも参加したというのですね。


そして、フランス人の場合にはフランス革命の動乱から落ち延びて、

気付いてみれば(?)英国海軍で働いていたというような。


また、アメリカ人の場合には未だパスポートもない当時、国籍をはっきりさせる術をもたないがために

イギリス人として徴発されてしまった人やはたまたプランテーションから逃れた黒人の人たちもいたようで。


こうしてみるとあたかも寄せ集め軍団のようでありますけれど、

これが意気軒昂に敵と戦う背景には相手方軍船を支配下に収めたならば

分捕った金品は山分けとの法律があったからともいえそうで。


分配率には多少差はあろうものの、

一水兵に至るまで必ず分け前に預かれるということになっていたそうな。

ましてトラファルガー海戦のような一大決戦では相手の軍船も大きく価値があり、

ともすれば一夜にして大金持ちも夢ではないことが十分に想像されたそうでありますよ。


で、結果としてトラファルガー海戦は英国軍の勝利に終わったことは歴史的事実でありますから、

この知られざる英雄たちはそれぞれに大金持ちに…とはならなかったのは何としたことか。


なんでも、敵側の軍船を引き連れて凱旋するまもなく、大嵐に見舞われて

これが何と一週間ほども続いた結果、敵軍船などは沈むに任せて、我が身を守るに精一杯。

いざ嵐が収まってみれば、大金持ちを約束する戦利品は海の藻屑と消えていたという。


トラファルガー海戦を戦った英国軍は多国籍混成部隊であったこと、

そこには黒人奴隷まで含まれていたこと、そしてそうした人たちが戦うモチベーションとして

分捕り品を山分けするとの法律があったこと、こうしたことごとは歴史の中に埋もれてしまって

広く知られてはいないのだそうでありますよ。


ただ、ロンドンのトラファルガー広場にすっくと立つネルソン像の

根元に据えられた海戦の様子を伝えるレリーフをよくよく眺めてみれば、

確かに黒人と思しき水兵も見て取れることが番組の映像にはっきり映されていました。


トラファルガー広場といえば、目の前にあるナショナル・ギャラリーばかりをじっくり眺めて、

あとはネルソン提督を見上げることと、日本橋三越とおなんじ見た目のライオン像を見るくらいですが、

こうした歴史の断片が刻み込まれたレリーフもあるのだということになれば、

やはりあちらこちらで眺めるいろんなものに大しては、もそっと注意深く眺めることをしないと

もったいないということにもなりましょうかね。