脳死臓器移植は正しいか / 池田清彦 | [A] Across The Universe

脳死臓器移植は正しいか / 池田清彦

脳死臓器移植。

この問題には少なからず興味を持って推移を見守ってきた。
脳死臓器移植が行われるようになって先月で丸10年。
この間に行われた脳死臓器移植は現時点で62例のみ。

そもそも「脳死は人の死か」という段階の議論で、移植法施行時に梅原猛先生が、いわゆる3兆候(心臓停止、呼吸停止、瞳孔散大)以外は人間の自然な感情として死として認められないと反論されていた記憶がある。
私自身は、死の基準さえクリアになれば、移植自体は現段階における医療技術の「次善の策」として認められるべきだと考えてきたし、またそれを疑いさえしなかった。

そこで手に取ったのがこの本。
様々な点から脳死移植を批判しており、論点整理の意味でも非常に良い内容だと思う。

批判の内容には観念的な視点も含まれているものの、総じて冷静に脳死臓器移植の問題点をあぶり出している。

中でもこれまで議論のテーブルにさえ載らなかったのが、脳死臓器移植を市場原理の観点から否定していることだ。

希少価値のあるものは高価になる。
この当然の理論が臓器移植には通用しない。(脳死移植は原則無料)

しかし、移植は純粋な医療行為であり、市場原理を持ち込むことはそもそもなじまないものではないのか。
それに対し著者は、移植医、コーディネーター、医薬品メーカーが利益を得てコネクションを持っている以上、経済活動から切り離されるべき理由はない、と喝破する。
そして、現在光明が見え始めた再生医療に資源を注ぎ込むべきだ、と言うのだ。


それでも私は脳死臓器移植を支持したい。
現在の医療技術において「次善の策」としての脳死臓器移植は「仕方がない」。
もちろん近い将来、他人の身体を当てにしなくても良い再生医療が確実な技術となることが最も望ましいとは考える。



先日、生殖細胞ではなく、本人の皮膚から臓器が再生可能と言う「万能細胞」の発表がなされた。

期待が高まる。





池田 清彦
脳死臓器移植は正しいか (角川ソフィア文庫)