クラッシュ | [A] Across The Universe

クラッシュ

太田 哲也
クラッシュ―絶望を希望に変える瞬間

「日本一のフェラーリ遣い」太田哲也。
彼が事故により瀕死の重傷を追ったのが1998年5月3日。
生死の境をさまよったその事故から、ひとつひとつ困難な治療を潜り抜け生きていく様を本人がつづったのがこの本。

雨中のレースで視界が悪くなり、事故を避けようとして起きた第2の事故。それはガソリンをもろに浴びてフェラーリごと燃える「爆発」といっても良いほどの大惨事だった。
意識が朦朧としている最中、黒いマントの男が現れて「君は濃い人生を送った」と迎えにやってくる。死神のように。太田はその男から逃げるように坂を登り始める。マントの男が言う「生きる事は辛い事だよ」

事故から3日目の5月6日、富士スピードウェイそばの病院から、日本で最高の熱傷治療技術がある東京女子医大病院形成外科に救急搬送される。
その後数え切れない形成手術と、痛みを伴う治療、リハビリが繰り返される。


電車で読んでいて声をあげて泣きそうになって大変だったのが、子どもとの事故後の再会の場面。なんとか涙を流すだけでこらえられたけど、家で読んでいたら間違いなく号泣していたことだろう。

焼け焦げて包帯で巻かれてミイラのような父親を見てショックを与えないように、と7歳の息子と3歳の娘には事故後顔を合わせていなかった。しかし、これからの生活の事も考え息子にだけは会う事にする。太田は「こんなパパ嫌だ。」と言われないかと、不安な気持になる。
しかし、カーテンを開けて父に対面した息子は走り出して胸に飛びこみ、わんわんと激しく泣き出す。

「佑人、パパは怖いか?」
「怖くないよ。パパはパパのままだから。」

3歳の娘との再会はこんなうまくは行かなかった。
父親の姿を見て「こわい」と泣き叫んでしまうのだった。しかし、その後妻がスプーンで太田に食事を食べさせていると、娘が取り上げて父親の口にスプーンを運び始める。


あー、通して感動してしまったので、書こうとしてもあらすじ全部書いてしまいそうだ。

自殺しようとしても、この病院には自殺防止措置が完璧にとられていてできなかったこと。
「笑い」は心の栄養であり心の「リハビリ」になると気づいたこと。
黒いマントの男は死神ではなかったこと。



一度死を意識した人の言葉はどうしてこれほど心に沁み渡るのだろう。


太田さん。
あなたは昔フェラーリに乗っていた頃も、今も変わらずにかっこいいです。
ありがとうございます。