秋元康に聞く、なぜ前田敦子さんがセンターだったの?
オーディションで落とすのは完成された女の子
田原:ここで、メンバーたちの話を聞きたい。センターを務めて今回卒業した前田敦子さんは、なんでセンターだったんですか。もっと歌や踊りのうまいかわいい子がいるのに、なぜ秋元さんは彼女に目をつけたんですか?
秋元:センターにいちばん向いてないな、と思ったからです。ファンはアイドルに「シンデレラ・ストーリー」を求めているんです。いじめられたり、ぼろを着て雑巾がけをさせられたりして不遇だった女の子が、お姫様として大成功する物語をね。
AKBは、はじめはこんなにダメだったけど、やっと自分の応援でここまできた。それをファンは体験したい。だったら最初からすごい美人やお姫様ではダメじゃないですか。
AKBのオーディションで、残念ながら僕がことごとく落としてしまうのは、完成された女の子たちなんです。
田原:はい、完成された子は落とす。
秋元:プロダクションをいくつも渡り歩くとか、そこそこ経験があるという子たちは、ことごとくどうなっていくか想像できてしまう。僕だけじゃなくてファンのみなさんが見ても、この子は器用だから自分がいなくても伸びていくだろうなと思える。それはつまらないからAKB48にはいらないというのが、僕のプロデュースです。
それであるとき、何も分からない無垢な14歳の前田敦子に「君がAKB48のセンターで歌うんだよ」と言ったら、彼女は大声を上げて泣きながら「嫌だ」と言った。ほかの子たちはみんなセンターになりたいし、ソロ曲がほしいんです。僕のプロデュースで、その子がセンターに立つかソロ・デビューして“にんまり”しちゃうと、そこからはもうドラマが生まれないんです。だから前田敦子しかいない、というのがありました。
田原:だけどお客さんには、彼女が嫌だと大泣きしたことが分からないでしょう。
秋元:いやいや、ファンのみなさんは、その微妙なところをずっと見ていますよ。それこそが、たぶんAKB48がAKB48劇場で毎日公演することの意味なんです。
毎日やっているからファンは、例えば「今日のあっちゃんはなんだか暗い。おかしいぞ。きっと何かあったはずだ」と気付く。それをブログで書いたり、なぜだという推測が掲示板で飛び交ったりする。1週間ほど経つと誰かが、どうやら彼女はレコーディングしたらしいとか、センターの話をもらったとき大泣きしたらしいという情報をつかむ。その話が広がって、みんなまたいろいろ妄想するんです。ファンのみなさんは、ステージと客席との境界線をなんとか越えようとします。ステージではダイレクトに明かされない情報に、ものすごく敏感ですね。
前田敦子には天才的なオーラがある
田原:彼女は、しゃべりもあまり得意ではなかった。センターには向かないでしょう?
秋元:しゃべりは全然ダメです。ただ、それでも彼女をセンターにしたのは、前田敦子っていう子には、やっぱり天才的なオーラがあるんです。
田原:なんですか? オーラって。
秋元:オーラ。これは僕のなかでも、なかなか説明がつかないんですけど。まあ、イメージでいうと、アミノ酸みたいなものです。「このラーメン、なんでこんなにおいしいんだろう」と、地方の小さな屋台で思うことがある。一流ホテルがメニューに載せているラーメンを食べても、そんなふうには感じない。それにはアミノ酸なのかイノシン酸なのか知りませんけど、なにか特別なものが含まれているんですよ。
前田敦子にも、そんな「なにか」がある。誰が教えたわけでもないのに「1つだけお願いがあります。私のことは嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないでください」なんて言う。彼女には、そういう天才ぶりがあるんです。
田原:「私のことは嫌いでも」って、総選挙の会場にアンチ前田が陣取っていて、2位発表のとき「前田! 前田!」という前田コールが始まる。お前は2位でいいんだ、と言われたからあんなことを言ったんですね。僕は「巨人軍は永遠です」と言った、長嶋茂雄みたいだと思った。あれは秋元さんが教えたんじゃないの?
秋元:まさか(笑)。僕が台本を書いたら、たぶんあのリアルさは出ないです。みんな「どんな話をすればいいですか」と相談にくるから、「あれこれ考えず、1つだけ決めておくといい。ファンに感謝したいとか私は悔しいとか、それだけを言うようにしたらいい。そのほうが記憶に残るよ」くらいは言います。でも、言葉を示して「これを言いなさい」とは一切言いません。
メンバーはそれを見ているから、篠田麻里子が「若い子たち、私にかかってきなさい」とか。おいおい、なに言い出すんだこいつはって、リアルでおもしろいんです。前田のオーラ、彼女だけが持つプラスアルファの部分は、芸能人がよく「あの人、独特のオーラがあるね」と言われるのと、あまり変わらないと思いますよ。
(つづく)