プランデルブ 北鎌倉 | 御食事手帖

御食事手帖

主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

自戒を込めて言うが、料理において「クラシック」という言葉が使われている時は、気をつけねばならない。
伝統を重んじた正統派の料理――、というのが本義であろう。
しかし、ネットの口コミなどをみるかぎり、「クラシック」の多くは、古臭い、創意工夫がない料理を、無理やり褒める際に使われているようだ。
特に食べ慣れない人がフレンチについて語る時が一番危うい。クラシックの何たるかを歴史書や料理書で学んだことも、本国でその種の料理を食べこんだこともない人の、無思慮な濫用が多いからだ。

さて、北鎌倉の山の上方にある一軒家フレンチ「プランデルブ」も、多くの人が「クラシック」と書き込んでいる店である。
あと、テレビドラマのロケ地、というのが、この店を語る時の定型句であろうか。

たしかに、構えも内装も悪くない。
多くの日本人が緊張感とドキドキ感で高揚した後、退店後は「こんなすごい店にいった」とSNSで自慢したくなる店だ。

しかし、肝心の料理は値段こそ良心的ながら、クラシックというよりは「ありきたり」。
箱のわりには、手が込んでいなかった。


前菜は白アスパラガスと桜マスのスモーク。
見た目は、きれい。だが、良く言ってシンプル、本当のことを言うと手間いらずな料理だ。
まずくはない。しかし、「これぞ、クラシック」というようなものでは決してないし、かといってひとひねりがあるわけでもない。

ちょっと比較してみよう。

こちらは、四谷三丁目のカウンター・ビストロ「ドゥエリーニュ」で食べた、同じく白アスパラと桜マスの料理。
下には白アスパラのムース。その上には、白アスパラを小さく切ったものとさいの目の桜マススモーク。その上に、うにと白アスパラの茹で汁をベースにしたジュレをかけている。
土の風味が際立ち、白アスパラが埋まっていたロワールの大地を想像させてくれる。
値段は決して高くはない。なのに、クラシックな高級店より、はるかに満足がいく。
目を閉じて料理を口にし、舌だけに集中すれば、優劣は一目であろう。


もう一つの前菜は、ホタテ貝と筍のロースト。
本当にシンプル。タケノコも値段なりの質。
はばかりながら、家でも作れそうな気がする。


魚料理は、鯛の一種のポワレ。
クラシックというよりは、コルドンブルーの課題のような料理だ。


メインは牛頬肉の赤ワイン煮。
定番すぎるほどの定番。たしかにこれはクラシック。頬肉には適度なゼラチンが入っていて、悪くはない。けど、東京ではその辺のビストロでも出てくるレベルともいえる。


もう一皿は、フランス産仔牛のポワレ。さっぱりとした肉質に、「プランデルブ」(ハーブいっぱいの意)という店名の割にはハーブも利いていないモーリーユのソースは、確かにクラシックながら、キノコの香りと出汁の点で力が弱い。

前菜とメイン、デザートは選べるプリフィックスで、7200円+サービス料10%。
この種の店の夜にしては、良心的な価格ではある。
北鎌倉からの送迎も無料で、サービスはちゃんとしている。
それだけに、料理が冴えないのは残念だ。
クラシック、との評価に安住しないでいただきたいものである。
それは、退屈、と表裏をなす指摘なのだから。




レストラン プランデルブ北鎌倉フレンチ / 北鎌倉駅

夜総合点★★★☆☆ 3.0