今宵一服煙草二抄【刻みたばこ篇】 | 地引家饂飩場のブログ

今宵一服煙草二抄【刻みたばこ篇】

現在、刻みたばこは『小粋(こいき)』という1銘柄しかありませんが、
その昔はどうだったのでしょうか。

たばこが日本に伝わってから全国各地で産地独特の特色を持った
いろいろな葉たばこが生産されていました。

元禄末期(1700年頃)を境に、喫煙やたばこ栽培が事実上認められるようになると、
『たばこ』の製造・流通などが急速に整備され地場産業として発展をたどります。

たばこは換金性の高い作物であったため、
地域の特産品として貴重な現金収入源となりました。

また、耕作地の土壌や気候によりたばこの味や品質に大きな差が出る中で、
『銘葉』とよばれるたばこが誕生します。

そのいくつかを紹介しましょう。

江戸時代のたばこ銘柄の多くは生産される土地の名前で呼ばれます。

・『服部』(摂津国島上郡服部村[現大阪府高槻市])
高級ブランド品として全国に広まったが、徐々に需要者の嗜好の変化などにより
次第に衰退。明治の頃に完全に姿を消す。

・『国分(国府)』(大隈国曽於郡[現鹿児島県])
最高級品として名を馳せる、贋物も多く出回ったらしい。
一般的に「国分」といってもさらに細かな品種に分かれていた。
大正時代末期から昭和にかけて両切り紙巻タバコの人気によりその需要は減少し、
現在同地方で栽培されているタバコは黄色種で在来種の国分は姿を消している。

・『舞留』(摂津、山城、丹波などの産地の葉のブレンド)
国分たばこに次ぐ人気銘柄。上質なものから、留葉、舞葉、薄舞と呼ばれた。
そのほかにもさらに細かく分類して販売されていた。

当時から各地で生産された種類の異なる葉たばこを客の好みに応じて
ブレンドして販売していたようです。

刻みの方法も時代と共に変化していきました。
伝来当初は乾燥させた葉を包丁で刻むだけでしたが、
嗜好品として暮らしに浸透していく中で徐々に細く刻むようになりました。

たばこの葉は細かく刻むほど味がマイルドになります。
日本人の食文化でもそうですが、あまり強い味や刺激を好まない事が
そのままたばこにも影響していると考えられます。

さて時は移り、時代は明治。
明治37年(1904)に煙草専売法によってたばこは製造販売まで
国の管理下に置かれることになり大蔵省専売局から日本専売公社となり、
昭和60年3月まで専売の時代は続きます。

専売制になってもすぐには刻みたばこは発売されませんでした。
これは民間の刻みたばこをすべて売り切ってからという計らいだったようです。

それでは専売時代の銘柄を紹介しましょう。


[福寿草]明治38年~昭和5年(1905~1930)

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[白梅]明治38年~昭和14年(1905~1939)

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[さつき]明治38年~昭和15年(1905~1940)

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[あやめ]明治38年~昭和19年(1905~1944)

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[はぎ]明治38年~昭和20年(1905~1945)

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[もみぢ]明治38年~明治40年(1905~1907)

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[薩摩刻]明治41年~昭和15年(1908~1940)

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[富貴煙]明治43年~昭和40年(1910~1965)

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[富貴煙]は細刻みクズだったそうです。


[水府]明治41年~昭和15年(1908~1940)

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水府は茨城県常陸太田市(旧久慈郡赤土村)産で、赤土村の安養院の住職
宥範上人が慶長13年(1608)に江戸の儒学者である林羅山から種子をもらいうけ、
その種子を村民の金田次兵衛に与え、寺の境内で試作したといわれる。


[みのり]昭和16年~昭和40年(1941~1965)

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みのりは下級品だったようです。


そして、ついに当時の国産最後の銘柄となりました。

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[ききょう]昭和23年~昭和54年(1948~1979)


これで刻みたばこの歴史が潰えたかに思えましたが、
専売公社は[山吹]というきざみをマカオから輸入し急場を凌ぎました。

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その[山吹]も平成15年(2003)に姿を消します。
話によると、あまり美味くなかったようで・・・。


[ききょう]が姿を消し、たばこ農家も在来種を栽培しなくなってから
久しく時が過ぎますが、日本の伝統文化の復活を望む声が多いことから
専売公社が『日本たばこ産業』に変わった昭和60年(1985)12月1日、
ついに純国産葉を原料にした[小粋]が誕生します。
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現在は『水府・出水・阿波・松川・だるま』などの5種類を
ある一定の決まりに基づき季節の変化や葉の出来具合により
微妙に調整しながら葉組みを行い生産されています。

参考文献:ことばにみる江戸のたばこ(たばこと塩の博物館[編])
参考サイト:JT