今週、来日中の中国人ジャーナリスト安替氏の講演会に参加しました。しかも2回も。


安替氏が来日中で、都内で講演会をされている情報を入手し、いろいろとツテを捜していたら、2つ情報をゲットできたので2回とも参加しました。



安替氏は中国語Twitterの影響力ランキングで4位にランクしている、非常に影響力のあるTwitterユーザーです。(ちなみに日本人では蒼井そらさんが22位にランクしています)


ご存知の方も多いかもしれませんが、中国政府はTwitterを遮断しているので、中国国内からは普通アクセスできません。が、いろいろと抜け道はあるようで、中国人のTwitterユーザは1000人ほどいるそうです。


中国政府がTwitterを壁の外に位置づけているため、政府側で検閲することはできません。すなわち、Twitter上では自由な発言ができるのです。安替氏は、これは中国人が2000年来初めて言論の自由を100%守られた全国的なプラットフォームを手に入れた画期的なことと表現されていました。


といっても中国人のTwitterユーザは1000人で、中国の4億のネットユーザのほんの1部です。ですが、5000万人のユーザを有する中国版Twitter「新浪微博」と連動しあって、いまや政府を動かすほどの大きな影響力を持つようになっているそうです。


安替氏は先月の上海での「献花事件」を例に挙げて説明します。

上海のマンション火災で多数の死者が出たことは日本でも大きく報道されたので、ご存知の方も多いと思います。


上海市政府は、この事件を無免許の電気工事員を罰することで収集を図ろうとしました。これに対し、市民は「それは筋が違うだろう」と不満を募らせます。ネットユーザは、Twitterやマイクロブログで呼びかけを行い、10万人規模の(献花という平和的手段による)抗議活動につながりました。この活動は政府を動かします。上海市政府側は市長、党書記が献花を行いました。そして、この事件を市政府の責任として処理することを認めました。


安替氏は、10万人規模の大々的な市民の活動が、政府を動かしたまさにエポックメイキングな出来事であることを強調します。そして、日本における中国報道の構造的失敗について指摘します。


AP、ロイター、AFP、ニューヨークタイムス、ウォールストリートジャーナルなど、主流な欧米メディアは大々的にこの事件を扱扱いました。一方、日本ではTBSのBS放送で放映されたのみだったそうです。この日、日本メディアは雲南で行われた小規模なデモ活動を報道していた。それは、政府系メディアがこの出来事を報道していたため。


日本メディアが中国動向を報道する際のニュースソースは主に人民日報や環球時報などの政府系メディアで、インターネットの情報は軽視し、無視しがち10万人規模の活動を引き起こし、政府側を動かす力をもっているのに、です。


安替氏によると、中国の公的世論は以下の5つの分野に分類される。

1.政府系メディア(人民日報、環球時報など)
2.市場主導型メディア:各種都市報など
3.新浪、捜狐、網易など市場に誘導されたポータルサイト、マイクロブログなど
4.Twitter(発言が削除されることない100%自由な環境)
5.各種掲示板(センシティブな意見は削除される、ただし民族主義的、愛国発言は残る)


政府の視点を代表するのは1、最も世論に影響を及ぼし主流と呼べるのは2,3、検閲されることないことから本当の世論を監査説するための裁量のメディアは4、偽者の民族主義がはびこっているのが5。にも関わらず、日本メディアは1と5を重視し、主流である2,3を無視している。さらに、4を無視することで、真の世論を見ることができるチャンスを放棄している、と指摘。


これでは日本国民に中国の本当の世論が伝わらず、誤解が広がってしまう。一方、日本の主な報道機関で中国語版を解説しているのは共同通信の共同網だけであり、窓口が狭すぎる、とも指摘。



非常に興味深い講演でした。


私も最近Twitterで中国人ユーザをフォローしたり、新浪微博をはじめて中国人のつぶやきを読んだりしています。


Twitterは安替氏が指摘するように、政府側から発言を削除されることがないため、これまで見られなかったような生々しい意見が飛び交っています。


政府側の検閲が入っている新浪微博の方も、ユーザが多すぎて検閲しきれないのか、かなり自由な意見が飛び交っているように思えます。


たとえば、最近文芸春秋社が新浪微博で日本に関するアンケート調査を実施していました。

その設問の1つに「中国はGDPで米国を抜くと思いますか?抜くとしたら何年後だと思いますか?」というものがありました。


それに対する回答は、「一般市民の生活は変わらない。さらに格差が広がるだけ。」「国ばっかり豊かになって、自分の生活は良くならない。」「自分が家を買えるかどうかにしか興味ない」などなど若干政府に批判っぽい意見も混ざっています。



前回のブログで、国家発展改革委員会が次期5ヵ年計画のために市民の意見を広く募集していることを書きました。これも政府側が世論に気を使っていることをあらわしているとも見えますが、選択するのは政府側であるし、政策が失敗しても辞職や解散することはないので、どこまで影響力を持つかは疑問です。


中国ではますますネットユーザが増えるでしょうし、その影響力も増していくでしょう。

ネットユーザが世論を作り、政府を動かす、という傾向が今後ますます強くなっていきそうです。